前線の影響で熊本県では大雨特別警報が発表されるなど、九州北部や山口県で記録的な大雨となり、被害が相次いでいます。
「8月に“梅雨末期”のような大雨になったのはなぜか?」
「今の被害から見える特徴は?」
専門家に聞きました。
《大雨のメカニズムに詳しい専門家》
大雨のメカニズムに詳しい名古屋大学・横浜国立大学の坪木和久教授に聞きました。

“地球上での最大量”大気の川がもたらした記録的大雨
Q.なぜここまでの記録的な大雨となってしまったのでしょうか?
水蒸気が川のように流れ込む、いわゆる「大気の川」が形成されて、大量の水蒸気が停滞している前線に向かって長時間にわたって流れ込み続けたことが原因だと考えられます。
地球の大気が含みうる最大量とも言えるほどの圧倒的な水蒸気の量です。水蒸気は西の大陸から入ってきているほか、さらに東シナ海上の南西風も前線に沿って流れ込みました。
前線が停滞していたため、長時間、同じ場所に水蒸気の流れ込みが続き、大雨となったということです。
梅雨が終わって1月以上が経ちますが、この8月にこうした現象が起きるのは本当にまれなことだと思います。
Q.なぜ前線は停滞し続けるのですか?
前線の停滞は、南側の高気圧と北側の高気圧の「せめぎ合い」で位置が決まります。
現状ではそれらの勢力が拮抗しているような状態が続いています。
太平洋高気圧が勢力を増せば前線は北に上がりますが、今はそういう状況にはなっていません。
線状降水帯=災害
Q.12日、13日にかけて大雨が続くと予想されています。どういった点に注意が必要ですか?
水蒸気の流れ込み「大気の川」はまだ持続しているため、これでもう安全になったということでは決してなくて、大気の川が持続する限りは、どこかで線状降水帯が発生する可能性は十分にあります。
線状降水帯というのは極めて大量の雨をもたらしますので、線状降水帯=災害と考えていただいて、線状降水帯が予測されるということは極めて危険な状態にあるという認識を持つことが重要だと思います。
まだしばらくはこの大雨、特に線状降水帯に警戒していただきたい。ただ、問題は線状降水帯はどこに発生するか、はっきりとした予測が難しいことです。
気象情報などに注意してもらい、可能性がある地域にいる人は適切に事前の避難をするなどしてほしいと思います。
特に、今後、深夜から未明にかけて大雨になることは十分考えられると思います。
暗くなる前に適切に避難をしていただくということが最も重要だと思います。
Q.坪木教授は航空機を使って「大気の川」の水蒸気量などの観測を行っていますが、どのようなことがわかってきましたか?
線状降水帯を引き起こすような大気の多様性が次第にわかってきました。
湿った空気が大気の下層だけに流れ込む場合もあれば、上空まで湿った空気が流れ込んでいる場合もあります。
今回の九州の大雨では、主に西から水蒸気が入ってきましたが、こういったものも観測できれば、予測の精度が向上すると考えられます。
《各地で大雨被害状況を調査の専門家》
各地で大雨被害の状況を調査してきた静岡大学の牛山素行教授に聞きました。

被害は災害リスクがあるところで
Q.これまでの被害から見える今回の大雨の特徴はありますか?
記録的な大雨で、それぞれの地域にとっては、少なくともここ数十年起きたことがないような雨の降り方でした。
一方、被害は地形的に見て危険性のあるところで起きてしまっています。
例えば熊本県甲佐町で起きた土砂災害は、ハザードマップで場所を確認してみても、土砂災害の危険性が高いと言われている「土砂災害警戒区域」の中で発生したとみられます。
私がこれまで過去の災害を調査した結果、人的被害が出るような土砂災害はおよそ9割が土砂災害警戒区域の範囲内で起きていて、今回もそこに当てはまるとみられます。
また、福岡県福津市の川で人が流されるケースがありましたが、川沿いはハザードマップで浸水が想定されている場所でした。
ハザードマップで浸水が想定されていない場所でも、地形を見てみると「低地」と呼ばれる、川の護岸よりも低い場所で浸水が発生したとみられるところもありました。
現時点では「ここでこんなことが起きるはずもない」というような災害は起きていないという印象です。
“特別警報にならなければ大丈夫”は誤り
Q.特別警報が出なかった地域でも被害の報告がありますが、災害が起きる危険度はどう判断すべきでしょうか?
特別警報にならなければ大丈夫かというと、全然そんなことはないです。
例えば近くの市町村で特別警報が出ていた状況であれば、そんなに極端には危険性の違いはないわけです。
気象庁のホームページで、土砂災害や浸水などの危険度を地域ごとに見られる「キキクル」では、一番厳しいのは「黒色」ですが、ここ2年ほど、人的被害をもたらすような大きな被害が生じた場所では、むしろ1段階下の「紫色」で被害が出てしまっているケースの方が目立ちます。
ですので、決して「特別警報」や「線状降水帯」といった情報ばかりに目を向けるのではなく、「キキクル」のほか、水位や河川の監視カメラも見られる国土交通省の「川の防災情報」というウェブサイトなど、様々な情報から危険度を判断してほしいと思います。
大雨続く 自分のいる地域の情報確認を
Q.今後も各地で雨が降り続くと予想されています。どういうことに注意すべきでしょうか?
特別警報が出るような記録的な大雨になると、その雨が降ったところだけに目が向きがちです。
もちろん九州は引き続き注意が必要ですが、中国地方や北陸の一部などでは土砂災害の危険性が高まっていて、土砂災害警戒情報が出ている地域もあります。
12日も西日本から東日本のかなり広い範囲で雨に注意が必要だと思います。
決して九州だけが大変になるというのではなく、自分が住んでいる地域などの最新の気象情報や防災情報を十分確認してほしいと思います。
事前のリスクの把握と危険な場所に近づかない
Q.お盆の期間中で帰省したり、遊びに行ったりしている人も多いと思います。どういったことに注意が必要でしょうか?
事前に自分の出かける先のリスクを把握しておくために、例えば国土交通省の「重ねるハザードマップ」などを見ておくことは重要です。
ただ、小さい川といったハザードマップに載っていない災害のリスクもあるので、ハザードマップを過信するのは注意が必要です。
大雨の時には、土砂災害の可能性がある崖の近くや渓流沿い、それに川の近くには近づかない。
こういったことを心がけておくことが大事だと思います。