生活保護支給額段階的引き下げ違法受け 専門家委員会が議論
国が生活保護の支給額を段階的に引き下げたことを違法とした最高裁判所の判決を受けた国の専門家の委員会が8日開かれ、引き下げた分をさかのぼって支給するべきかどうかを判断するための議論を交わしました。
生活保護費の引き下げをめぐることし6月の最高裁判所の判決では、厚生労働省が物価の下落を踏まえ「デフレ調整」を行うなどして2013年から3年にわたって支給額を段階的に最大で10%引き下げたことについて、当時の判断は違法だったとして、引き下げの処分を取り消しました。
判決を受けて設置された厚生労働省の専門家による委員会の3回目の会議が8日開かれ、引き下げた分をさかのぼって支給するべきかどうかを判断するための議論が行われました。
この中で行政法が専門の委員からは「判決によって引き下げを行う前の状態に戻ったとしても、十分な根拠がなく再びデフレ調整を行うことは、『紛争の蒸し返し』と捉えられる」など判決で違法とされたデフレ調整を再び行うことは「難しい」とする意見が複数出ていました。
専門家の委員会では、引き続き、引き下げた分をさかのぼって支給すべきか、支給すべきとなった場合はおよそ200万人とされる当時の受給者のどこまでを支給の対象にするのかなど国の対応のあり方について検討を進める方針です。
厚生労働省が設置した専門家の委員会では、最高裁判所の判決の法的な拘束力がどこまで及ぶのかが話し合われています。議論の経緯や内容をまとめました。
Q.なぜ、こうした議論が行われている?
A.厚生労働省が生活保護の基準額を2013年から3年にわたって段階的に引き下げた分を、さかのぼって支給する必要があるかどうか、判断するためです。
最高裁判所の判決では、当時の物価の下落をふまえ、厚生労働大臣が独自の指数を使って最大で年間およそ580億円を削減した「デフレ調整」についての判断は違法だったとして、引き下げを行った処分を取り消しました。
一方で判決では、専門家による部会が消費の実態に基づいて検証した結果をふまえ、最大で年間およそ90億円を削減した「ゆがみ調整」については、法律に違反していないと判断しました。
こうした判決の内容を受けて、厚生労働省としてどのように対応すべきか検討しています。
Q.判決の法的な拘束力について、委員会ではどのような意見が出ている?
A.前回・2回目の委員会では、行政法の2人の専門家から「判決で処分が取り消され、引き下げを行う前の状態に戻っているため、理論的には厚生労働省は再度、基準額を設定できる」という見解が示されました。
この場合の考え方について、神戸大学大学院の興津征雄教授は、「デフレ調整は違法だという拘束力が生じているため、現実的には再度、デフレ調整を行うことはできないという意味が含まれた判決だと思う。ただ、ゆがみ調整については引き下げの処分の違法性を根拠づける理由になっていないので、もう一度やり直す余地はかなりあると思う」と述べました。
一方で委員会では、原告の弁護団も意見を述べていて、伊藤建弁護士は「違法とされなかったゆがみ調整分についても、引き下げの処分が全体として違法だと判断されている以上、後から減額をすることは許されない」と主張しています。
Q.引き下げが行われた当時の受給者はおよそ200万人とされる。今回の判決は、原告以外の受給者にどのような影響がある?
A.これについても委員会で議論されています。
行政法が専門で東京大学大学院の太田匡彦教授は、「判決の効力は原告にしか及ばないが、厚生労働省が再度、基準額を設定するのであれば、原告の基準とそうでない人の基準を分けられないので、原告以外の受給者にもその新しい基準を適用することになる。その結果、追加で支給が必要な人には、支給を考えなければいけない。どうやっても追加の支給をしなくてよいという結論は出ないと思う」と述べました。
また、興津教授も「判決の趣旨に合うように基準額が設定された場合、それは一般的な効力をもつので裁判の当事者だけでなく、当時の受給者にも及ぶ」と述べました。
厚生労働省は引き続き委員会を開き、出された意見を踏まえて対応をとりまとめる方針です。