埼玉 八潮市 大規模陥没で委員会「腐食した下水道管に起因」
埼玉県八潮市の大規模な道路陥没を受けて、原因やその対策を検討していた「原因究明委員会」は、4日、中間の取りまとめを公表し、陥没の原因は硫化水素で腐食した下水道管によるものだという考えを示しました。
ことし1月に八潮市で発生した大規模な陥没事故では、転落したトラックを運転していた74歳の男性が死亡しました。
埼玉県は、ことし3月、有識者による「原因究明委員会」を設置して陥没の原因と再発防止策を検討し、4日、3回目の会合を都内で開きました。

冒頭、委員長をつとめる城西大学の藤野陽三学長が「これまで現地調査や専門家への意見聴取などを進め、下水道管が損傷したメカニズムについてさまざまな可能性を推定し、議論してきた。4日の会議では、道路陥没を起こした要因や背景などについても検討を進めたい」と述べました。
そして、委員会としての中間の取りまとめを公表し、陥没が、硫化水素で腐食した下水道管に起因するものだという考えを示しました。

また、道路がどのように陥没したかについては、3つの可能性を示した上で、管の小さな隙間から土砂が流出して地中に空洞が発生した後、
▼時間をかけて路面近くに達して陥没が起き、その後、下水道管が崩壊したか、または
▼腐食した下水道管が崩壊して道路が陥没したか
の2つの可能性が高いと説明しました。
委員会では、今後も現場に残された管のコンクリートの分析を進めるなどして年内に最終報告書を取りまとめることにしています。
会合のあと、「原因究明委員会」の藤野陽三委員長は「事故が起きたときに、上水道や道路は止めれば済むが下水道は止めるわけにいかない。今回の事故が警告となって下水道のありがたみを理解してもらうとともに、報告を通じて、下水道がいろいろな意味でよくなったと言われるきっかけにしたい」と話していました。
図面には高低差1.9メートルほどの勾配も
現場の下水道管が使われはじめたのは、42年前の1983年です。
NHKが入手した現場周辺の下水道管を設置する際の契約書は、1978年に県と工事を請け負った業者の間で交わされた契約内容について記されていて、下水道管の平面図や断面図などが示されています。

このうち、陥没現場のおよそ5メートル手前の図面を見ると、事故当時と同じく向かって左側の上流から右側の下流に向けて、管の直径が3メートルから4.75メートルに拡大していることがわかります。
また、管と管の接続部には幅が10.5メートル、深さが11メートルのマンホールが設置され、マンホールに下水が流れ込む際には高低差1.9メートルほどの勾配があることもわかります。
高低差がある場所では、下水に含まれる硫化水素が空気中に拡散して硫酸となりやすいことから管のコンクリートの腐食がより早く進むとされています。
現場周辺では交通規制 影響続く
復旧工事が続く現場周辺では交通規制が続いているほか、住民などからは下水のにおいが気になるといった声も上がっています。

現場から100メートルほどの場所で衣料品店を営む60代の男性は、「現場で消臭剤をまいてくれたのでにおいは当初よりも感じにくくなっているものの、風の影響で臭いことがあります。老朽化はここだけではなく、日本全体の問題だと思うので早く原因究明してほしい」と話していました。
また、事故以降、周辺では交通規制が続いているため、路線バスをう回させる対応を取っています。
60代の女性は「最寄り駅に行くときに時々バスを使っていましたが、交通規制で時間がかるようになり、乗らなくなりました。歩いて行くにもこの暑さなので不便です」と話していました。
一方、埼玉県は、現場周辺の半径およそ200メートルの範囲を中心に、周辺住民や事業者を対象として補償を行う方針を示しています。
具体的には、住民には1世帯につき3万円に加えて1人あたり2万円を、事業者には一律で10万円を支払います。
また、交通規制によって、休業を余儀なくされたり、売り上げが減ったりした事業者には、営業補償も行うことにしています。
今後の見通し 本格復旧には5年から7年か
現在、現場では下水道管の中に堆積している土砂や破損した管のコンクリート片の撤去が進められています。
県は年内に下水道管を仮復旧させる計画で、来年4月に片側1車線の暫定的な形で通行止めを解除することを目指しています。
仮復旧には、およそ300億円がかかる見通しです。

また、今後、現場周辺では新たな下水道管1本を追加で埋設して複線化する方針で、本格復旧には5年から7年かかるとみられています。
県は、別の有識者による委員会で複線化の具体的なルートなどを検討しています。
大野知事「下水道施設の安全確保に努める」
埼玉県の大野知事は「大規模な下水道管の点検・調査方法の抜本的な見直しや対策方法の確立の必要性など、今回の事故で浮き彫りになった課題について、引き続き国に積極的な取り組みを求めるとともに、下水道施設の安全確保に努めていまいります」とコメントしています。
国土交通省 下水道管の老朽化対策を強化
埼玉県八潮市で起きた大規模な道路陥没を受け、国土交通省は下水道管の老朽化対策の強化に乗り出しています。
管路更新などへの補助
国は、老朽化した下水道管を更新するなどした自治体に対して費用の2分の1を補助していますが、補助を受けられるのは一定以上の大きさの管路に限られるなど、要件が設けられています。
こうしたことから国土交通省は、災害時に緊急車両が通る「緊急輸送道路」の下にある管路など、破損した場合に社会的な影響が大きい管路については、来年度からは要件を設けずに更新する際に費用の2分の1を補助する方針です。
また、破損した場合に社会的影響が大きい管路のうち、水深が深いなど修理が難しい場所に予備的な管路を別途、敷設する場合についても、来年度から新たに補助の対象にする方針です。
全国特別重点調査
一方、国土交通省は八潮市で起きたような陥没事故を未然に防ぐため、ことし3月、「全国特別重点調査」を関係自治体に要請しました。
調査の対象は、1994年以前に設置され、直径が2メートル以上と大きい下水道管で、総延長は47都道府県のおよそ500の自治体にある5000キロメートルに上ります。
このうち、下水道管の構造や地盤の条件が八潮市の現場と似ている1000キロメートルについては特に緊急性が高いとして優先的に調査を行うよう求めていて、早ければ今月中にも調査結果が公表される見通しです。
それ以外については来年2月末までに結果を報告するよう要請しています。