
【検証】ストーカー殺人事件 神奈川県警の対応を詳しく
川崎市の岡崎彩咲陽さん(20)が、元交際相手の白井秀征被告(28)からのストーカー被害などを警察に相談していたにもかかわらず殺害された事件。
神奈川県警察本部は4日、組織としての対応にミスがあったと認めたうえで「ストーカー事件などに対処する体制が形骸化していた」とする検証結果を公表しました。
岡崎さんが地元の警察署に電話をかけていたのは、去年12月9日から行方が分からなくなった20日までの計9回。担当した警察官全員が危険性・切迫性を過小評価していました。
また、岡崎さんが行方不明になって以降も、犯罪被害を視野に入れた捜査の機会を逃し続けたとしています。
検証結果の報告書を詳しく読み解きます。
【1】捜査を繰り返し求めるも 受け止められず

報告書には、行方が分からなくなった被害者を心配する親族が警察に対して捜査するよう繰り返し求めたにもかかわらず、こうした訴えをしっかりと受け止めていなかったことも記されています。
ことし1月、被害者の父親が警視庁の警察官に対し「地元の警察署にも相談したが、行方不明者届を取られただけで相手にされていない感じがする」などと相談したということです。
これを受けて警視庁から、神奈川県警察本部でストーカーなどを扱う人身安全対策課と、殺人や誘拐などを扱う捜査1課にそれぞれ情報提供されました。
人身安全対策課では警察署の生活安全課に状況を確認したあと経緯について幹部に報告が行われましたが、幹部からは特段の指示はなく、警察署への指導などは行われませんでした。
また、捜査1課でも警察署の刑事課に対応状況を確認しましたが、「生活安全課が主体となって対応している」などと報告を受けたため特段、指導は行わず、幹部への報告もしなかったということです。
一方、県警本部の相談窓口である広報県民課でも、親族から「警察署が動いてくれない」などという相談をことし1月、2回にわたって受理していました。
この相談については本来、警察への「苦情」として県警本部長や県の公安委員会に報告すべき内容だったにもかかわらず、警察への「要望・意見」などとして処理し適切な報告が行われなかったということです。
さらに、こうした親族の一連の訴えは警察署の署長にも伝えられていましたが、積極的な事実確認を行わず、指揮も不十分だったとしています。
【2】行方不明以降も判断を見直さず
報告書は被害者の行方が分からなくなって以降、川崎臨港警察署は犯罪に巻き込まれているおそれを示唆する情報を把握しながら、事件性の判断を見直していなかったことも指摘しています。
行方不明の直後には、被害者の親族から▽被告が自宅周辺をうろついていたことや▽被告から「許さない」などといったメッセージが送られていたという情報が寄せられていました。
また、被害者のスマートフォンの電源も切断されたままの状態が継続していたことも把握していました。
さらに、ことし1月中旬には、被告の親族から『被害者を殺害した疑いがある』といった情報の提供もありましたが、被害者の命に危険が生じていることを想定した捜査は行われませんでした。
このほか、被害者が参加を予定していた成人式後の同窓会も欠席していたことを把握していましたが、警察署の署長は対処するよう指示しなかったとしています。
【3】“捜査の基本”が徹底されず
被害者が行方不明になってから2日後の去年12月22日、身を寄せていた祖母の自宅の窓ガラスが割られているのが見つかり110番通報がありましたが、この際の対応もずさんだったことが報告書から読み取れます。
通報を受けて川崎臨港警察署の警察官が駆けつけ現場で状況を調べましたが、報告書では「当然に行うべき鑑識活動としての写真撮影や指紋採取などを行わず、臨場した署員は『窓が内側から外側に割れている可能性がある』『被害者は自分でいなくなった可能性がある』などと事件性が低いと拙速に判断し、捜査の基本を欠いていた」としています。
また、この報告を受けた上司も署員の判断を追認し、署長や刑事課長など警察署の幹部に内容を伝えなかったということです。
この時に犯罪現場で証拠を保存するという“捜査の基本”が徹底されなかったことが、その後の捜査が遅れる原因のひとつだと指摘しています。
【4】9回電話するも助けられず

被害者の行方が分からなくなったのは去年12月20日で、被害者は12月9日から当日の20日までの間に合わせて9回、地元の川崎臨港警察署に電話をかけていました。
このうち少なくとも3回は、被告によるつきまといなどに関するものだったということです。
しかし、たび重なる電話相談に対し、担当した警察官全員が危険性・切迫性を過小評価しストーカーなどの『人身安全関連事案』として認知することすらできず、すべて記録しなかったほか本部への連絡もしなかったということです。
報告書では、この電話相談に対しストーカー事案として認知して本来とるべき対応が行われていれば「被害者の安全を確保する措置を講じることができた可能性があった」と指摘しています。
【5】被害届 取り下げ時の対応も不適切

この事件では被害者が行方不明になる3か月前、「元交際相手から暴行を受けた」という被害届がいったん出されたものの、その後、被害者本人が取り下げました。
今回の検証ではこの際の対応も不適切だったと指摘しています。
去年9月、被害者の父親から「娘が元交際相手から暴行を受けた」という趣旨の通報があり警察官が本人に話を聞いたところ、「蹴られたり、殴られたり、刃物を突きつけられたりした」と説明したことから、被害届を受理したということです。
しかし、翌月になって、被害者本人が「事実と異なる説明をした」として被害届を取り下げました。
この点について報告書では被害届を取り下げる意思が変遷する可能性があるほか、その後もトラブルが継続していたことを踏まえれば、被害届を取り下げた事情を日を置いてから掘り下げて聞くなど、慎重に対応すべきだったとしています。