大川原化工機えん罪事件で検証結果公表【警視総監の会見詳細】
今回の検証結果を受けて、警視庁の迫田裕治警視総監は、7日に異例の記者会見を開いて謝罪しました。
警視総監が個別の事案で会見を開くのは、2007年に立川警察署の巡査長が飲食店従業員の女性を拳銃で殺害した後、自殺した事件以来だということです。
会見の詳細です。
“改めて深くおわび”
本日、判決を受けた警察捜査の問題点と再発防止策に関する検証報告書を取りまとめ、東京都公安委員会に報告し了承を得ました。
警視庁としましては、今回の検証で明らかになったように、当時公安部において組織的な捜査指揮がなされなかったことで捜査の基本を欠き、その結果、2審の判決で違法であるとされた捜査を行ったことを真摯(しんし)に反省しております。
捜査によって逮捕された3人の方々、捜査対象となった会社の関係者の方々に、多大なご心労、ご負担をおかけしたことにつきまして、改めて深くおわび申し上げます。
また、亡くなられた会社の顧問の方およびそのご遺族の方々には、心から哀悼の意を表するとともに、本件捜査によって多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて深くおわび申し上げます。
“捜査指揮系統の機能不全が最大の反省事項”
検証報告書を取りまとめるにあたり、このような事案を2度と起こさないためにも、今回の過ちについて、組織として捜査の基本を徹底しより的確に判断するならばどうすべきであったかという観点から捜査上の問題点を抽出しました。
今回の捜査上の問題点を総括すると、公安部全体の捜査指揮系統の機能不全ということが最大の反省事項であったと考えております。
再発防止策として、組織としての捜査指揮を適正かつ実効性があるものとするための仕組みや体制を再構築し、それが十分に機能を発揮できるよう、公安部内の各レベルでよりよい捜査指揮に資するための意思疎通の円滑化を促進する取り組みを進めることとしました。
今回の捜査により多大なご心労、ご負担をおかけした皆様、また、警視庁を支えていただいている都民、国民の皆様に、改めて深くおわびを申し上げます。
警視庁として、今回の検証結果を踏まえ、警察に与えられている捜査権の重みを十分に理解し、緻密かつ適正な捜査を推進することにより、都民、国民の期待に応えられるよう、たゆみのない努力を積み重ねてまいります。
会見質疑
Q.今回 警視総監がみずから記者会見に臨んだ理由や思いは
迫田警視総監
今回の検証報告書は、副総監を長とする検証チームがとりまとめたものですが、本件は、組織として捜査の基本に欠けるところがあり公訴が取り消されるという異例の事案であることから、私自身もこれまでの検証過程において警視庁のトップとして必要な対応を行ってまいりました。
また、私個人としても、長く公安・外事警察部門で勤務していて、本件にもさまざまな立場で関与してきた経緯があります。
そうしたことを踏まえ、私から説明させていただくこととしました。
Q.これまでにみずからも警視庁公安部長などを務めた立場を踏まえ、今回の検証結果をどのように受け止め、再発防止にどのような姿勢で取り組んでいくのか
警視総監
これまで、警視庁や警察庁などにおいて長く公安・外事警察部門の幹部の立場にあった者としては、情報保全を徹底しなければならないという部門の業務の性質上、このようなことが起こり得る状況にあったにもかかわらず、十分な対策を講じるまでに至らなかった点について反省するところです。
今回策定された再発防止策を着実に実施することで、公安部の業務に伴って生じる弊害を取り除きながら、このような事案を2度と起こさないよう、公安部全体の捜査指揮能力の向上に努めてまいります。
Q.厳しい検証結果になっているが、公安部を今後、どのように指導・育成していくのか
警視総監
いま警視総監という立場なので、今回の反省事項を公安部の職員一人ひとりが深く胸に刻んで、再発防止策の着実な実施に取り組むよう求めていくとともに、いま一度、警察に与えられている捜査権の重みをしっかりと浸透させていく所存です。
そうすることで、公安部全体の捜査指揮能力、ひいては捜査能力全般の向上につなげ、成果にもつなげていく。
その結果、おのずと職員の士気も上がっていくものと期待するところです。
Q.民事裁判の2審では、3人の捜査員の批判的な証言について「壮大な虚構」という表現で反論していたが、今回、報告書の中でその表現を撤回した。この点についての所感を。
警視総監
「壮大な虚構」という表現は、3人の捜査員への配慮を欠くのみならず、将来にわたって職員が自由に意見を述べることを萎縮させかねない点においても不適切なものだったと考えています。
警視庁としては、今後はこうした考えは一切持たないという決意とともに撤回することとしました。
また、これに関連して、当方の裁判の準備書面で関係者の主張について行き過ぎた表現があり、心証を害したというご指摘があったのならば、その点も真摯に受け止めたいと考えております。
Q.今回の検証結果では公安部の体質的な問題も指摘されたが、公安部長経験者としての見解を。
警視総監
公安警察部門は、業務の性質上、情報保全を厳格に行う必要性が他の部門に比べて極めて高いという事情があることから、業務の進め方などについて係の垣根を越えた知見やノウハウの共有が行われにくい傾向にあると考えています。
本件捜査における問題点の背景には、こうした公安部特有の問題があったうえに、当時の外事1課の担当管理官と係長は検挙を第一に考えてなんとか立件できるように積極方向で捜査を進め、捜査上の消極要素について十分な注意を払っていませんでした。
そうした状況下において、公安部長以下の捜査指揮系統の機能不全によって今回の結果につながったと考えており、こうした問題を2度と起こさないようにするため、再発防止策を徹底してまいる所存です。
Q.警視総監は、今回の事件で会社の捜索などが始まった時期に警察庁の外事課長を務めていた。その時にどのような報告を受け、どんな対応をしていたのか。
警視総監
警察庁の外事課長だった当時に、捜索・差し押さえの実施予定を含めて本件捜査について報告を受けています。
これは、必要に応じて警察庁が全国警察の活動を調整するための報告であり、経済産業省との協議状況や捜査の詳細な内容までは承知していなかったというのが実態です。
しかしながら、外事課長在任中に私のもとで起きていたことの責任は私にもあると考えています。
2審の判決が示された現時点で考えますと、より深く関与することができたかもしれないという点で、私個人としてもじくじたる思いがあり、反省すべきと考えています。
いずれにしても、なぜ被害者が起訴取り消しから4年近く頑張らないと検証に踏み出すことができなかったのかという、一連の訴訟対応に対する批判を真摯に受け止めているところです。