大川原化工機えん罪事件 警視庁検証結果を公表 歴代幹部処分へ
横浜市の「大川原化工機」の社長など3人が逮捕され、その後、無実が明らかになったえん罪事件で、警視庁は7日、「公安部長ら捜査の指揮系統が本来発揮すべき機能を果たさず、大きな過ちにつながった」などとする内容の検証結果を公表しました。また、警察当局は退職者を含む歴代の幹部らを処分、または処分相当とする方針です。
横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長など幹部3人は5年前、軍事転用が可能な機械を不正に輸出したとして逮捕・起訴されましたが、その後、起訴が取り消され、無実が明らかになりました。
社長などは「違法な捜査で苦痛を受けた」として訴えを起こし、東京高等裁判所はことし5月、警視庁公安部と東京地検の捜査の違法性を認めて都と国にあわせて1億6600万円余りの賠償を命じ、この判決が確定しました。
これを受けて、警視庁は副総監をトップとする検証チームを立ち上げ、一連の捜査の問題点について検証を進め、その結果をまとめた報告書を7日に公表しました。
今回の事件の捜査は警視庁公安部外事1課の管理官ら2人が中心になっていたということですが、報告書では、この2人が積極的に捜査を進める中、捜査員からの慎重な意見に耳を傾けようとせず、捜査方針を再考する機会が失われていたと指摘しています。
さらに、公安部長ら幹部への捜査状況の報告が形骸化し、実質的な捜査指揮が存在しなかったとしたうえで、「捜査の指揮系統が本来発揮すべき機能を果たさず、大きな過ちにつながった」と結論づけています。
検証結果を受けて、迫田裕治警視総監は7日に異例の記者会見を開き「捜査の基本を欠き、真摯(しんし)に反省しています。逮捕された3人の方々や捜査対象となった会社の関係者の方々に多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて、改めて深くおわび申し上げます」と述べて謝罪しました。
検証の結果を踏まえて、警察当局は退職者を含む歴代の幹部らを7日にも処分、または処分相当とする方針です。
また、警視庁は再発防止に向けて、
▽重要事件については公安部長が取りしきる捜査会議を導入するほか、
▽公安総務課に捜査の監督・指導を行う部署を新たに設ける
などの対策を実施するとしています。
裁判では捜査の違法性を認める
民事裁判の2審の判決で東京高等裁判所は、3人を逮捕した警視庁公安部の判断について「合理的な根拠が欠けていた」と指摘し、捜査の違法性を認めました。
追加捜査せず 輸出規制の解釈も“相当でない”
「噴霧乾燥器」は、経済産業省の省令で「機械の内部を滅菌または殺菌できるもの」が輸出規制の対象とされています。
これについて警視庁公安部は、熱で内部を温める方法により、省令で挙げられている細菌のうち、1種類でも死滅させればよいと解釈しました。
この解釈を前提に、機械の内部が殺菌できる温度に達するかどうかを確かめる実験などを行い、輸出規制の対象にあたると結論づけて3人を逮捕しました。
警視庁公安部のこうした判断について東京高等裁判所は、大川原化工機の幹部などから実験で調べた場所以外にも温度が上がりにくい場所がある可能性を指摘されていたにもかかわらず、追加の捜査を行わなかった点を挙げ、「合理的な根拠が欠けていた」と指摘しました。
また、輸出規制の要件をめぐる公安部の解釈についても、「1種類の微生物でも死滅させることができれば足りるとするのは省令の趣旨に合わない」などと指摘し、「相当ではなかった」としています。
そのうえで「通常要求される追加捜査を実施していれば、輸出規制の対象にあたらない証拠を得ることができた。それに加えて、経済産業省の担当部署から解釈の問題点について指摘を受けながら再考することなく逮捕に踏み切った点において、判断に基本的な問題があった」として捜査の違法性を認めました。
取り調べも“違法との評価免れない”
判決では、警視庁公安部の取り調べについても厳しく指摘しています。
元取締役の島田順司さんに対する逮捕前の任意の取り調べについて、東京高等裁判所は、担当の警察官が犯罪が成立するか否かのポイントとなる輸出規制の要件についての解釈をあえて誤解させたとしたうえで、「重要な弁解を封じて調書に記載せず、犯罪事実を認めるかのような供述内容に誘導したもので、違法との評価を免れない」と指摘しました。
さらに逮捕後の取り調べでも、「弁解録取書」という調書を作成する際に島田さんの指摘に沿って修正したように装い、実際には別の内容の調書を見せて署名させたと認定。
そのうえで「欺くような方法で捜査機関の見立てに沿った内容の調書に署名させたもので、島田さんの自由な意思決定を阻害した」と厳しく指摘しました。
検察の起訴も違法と認める
東京高等裁判所は、検察が起訴したことについても違法だったと認めました。
大川原化工機の「噴霧乾燥機」には温度が上がりにくい場所があるとする会社側の指摘について検察も報告を受けていたとしたうえで、「警視庁公安部の実験結果に疑問を抱かせる指摘であり、有罪の立証のためには検証することが当然に必要だった。通常要求される捜査をしていれば輸出規制の対象にあたらない証拠を得ることができたといえ、有罪と認められる嫌疑があるとした検察の判断は合理的な根拠を欠いていた」としました。
また、輸出規制の要件をめぐる警視庁公安部の解釈についても、検察が会社側から国際的な合意と異なるとして疑問を伝えられていたことなどを挙げ、「およそ不合理だったとまでは言えないとしても、その解釈を続けることには疑念が残る。これを前提に起訴するかどうかについては、慎重に判断するのが適切だった」と指摘しました。