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びわ湖で新発見「鬼の金棒」のようなこの貝が…

滋賀県

滋賀県のびわ湖の生物多様性を物語る巻き貝「カワニナ」について、東京大学の研究者が生息地を調査したところ、ほかの生息地から隔絶された湖の底にある山の上に、これまでと特徴の異なるカワニナが生息していることが新たに分かりました。

調査した研究者は「過酷な環境で暮らすためにゴツゴツした貝殻を持つなど独自の進化を遂げた可能性がある」としています。

びわ湖の多様性を物語る新発見

びわ湖のみに生息するカワニナの仲間たち

滋賀県立琵琶湖博物館などによりますと、びわ湖にはここにしか生息していない17種の小さな巻き貝の「カワニナ」が確認されていて、びわ湖の生物多様性を物語る生き物として知られています。

カワニナの調査(2025年7月実施)

東京大学の澤田直人特任研究員(29)は、びわ湖でカワニナの新たな生息地を見つけようと、地元の漁業者の協力を得て船での調査を行いました。

澤田さんが着目したのは、びわ湖の沖合5キロ付近の湖の底にある「湖底の山」です。

画像中央付近の「沖の白石」周辺の水中に湖底の山がある

カワニナは通常、湖の浅瀬から水深30メートル付近にかけて生息しているため、水深が60メートルほどある沖合には生息できないと考えられてきました。
しかし、「湖底の山」は高さが40メートルほどあり、山の頂上は水深20メートル付近に位置しています。

澤田さんはこの頂上付近の水深であれば、カワニナが生息可能であると考え、地元の漁業者の協力を得てエビを取るための伝統的な漁具をしかけたのです。

引き上げた漁具の中を確認する澤田さん

その結果、漁具の中からエビに混じってカワニナが見つかりました。

貝殻の形や遺伝情報を解析した結果、びわ湖のほかのカワニナとは特徴が異なることが確認されたということです。

「鬼の金棒」のようなカワニナ

このカワニナは貝殻の表面に突起があり、昔話などに出てくる「鬼の金棒」のような特徴的な形をしています。

東京大学 澤田直人 特任研究員
「新たに見つかったカワニナは『湖底の山』の頂上付近に限って生息しているとみられます。過酷な環境で暮らすためにゴツゴツした貝殻を持つなど独自の進化を遂げた可能性があると考えられます」

多様性の象徴「カワニナ」

びわ湖には、ビワコオオナマズなどのびわ湖にしか生息しない固有の生き物が60種以上確認されていて、なかでも生物の多様性を象徴する存在なのが、「カワニナ」と呼ばれる淡水性の小さな巻き貝です。

これまでに17の固有種が確認されていて、びわ湖固有の生き物の3分の1近くを占めています。

浅瀬の岩場に生息するカワニナ

びわ湖の沿岸の岩場や泥、砂地など、変化に富んだ環境に適応し、長い時間をかけて多様な固有種に分かれていったと考えられています。

びわ湖のカワニナ類の進化

こうしたびわ湖のカワニナの多様化は、およそ40万年前以降に起きたと見られることが、高知大学などが行った遺伝情報の解析からわかっています。

東京大学 澤田直人 特任研究員
「びわ湖のカワニナを10年近く研究してきましたが、びわ湖は“カワニナの湖”と言っても過言ではなく、カワニナを調べることはびわ湖について知ることそのものだと考えています」

びわ湖の「湖底の山」

びわ湖の底にはいくつかの山が存在していることが知られています。

湖底に山が存在する水域 ※点線は目安

このうち、今回のカワニナの調査が行われた「湖底の山」は高さが40メートルほどあり、13階建てのビルに相当します。

一方で、びわ湖の水深は最も深いところで100メートルを超えていて、調査が行われた「湖底の山」の周辺も水深60メートルと比較的深くなっています。

びわ湖の底の地形の模型 滋賀県立琵琶湖博物館に展示

このため「湖底の山」の姿は水面からは全く見えず、水中にひっそりと隠れるように存在しています。

大学院で学んだ漁業者が協力

今回のカワニナの調査が行われたびわ湖の沖合は流れが急で、ダイバーなどが潜って調査を行うのは危険を伴うということです。

そこで、調査の実現に協力したのが、滋賀びわ湖漁業協同組合海津支所に所属する若手漁業者、宮崎捷世さん(29)です。

宮崎捷世さん(左)と澤田直人さん(右)

東京海洋大学の大学院でびわ湖の魚をテーマに研究をしていた経験のある宮崎さんは、おととし、カワニナの調査を行う同世代の研究者、澤田直人さん(29)の講演を聞いたのをきっかけに、調査に協力するようになりました。

エビタツベ

宮崎さんはエビを取るための伝統的な漁具「エビタツベ」を船に積み込んで調査水域に向かい、水面には出ていない「湖底の山」の頂上付近を狙って漁具を落とし、後日回収する調査を行いました。

漁具は生き物が一度入ると抜け出しにくい構造になっていて、宮崎さんはエビや魚とともにカワニナを引き上げることに成功したということです。初めて成功したのは2年前です。

漁業者 宮崎捷世さん
「よく見ると全然見たことがないカワニナだったので、澤田さんと2人で叫び声を上げたことを覚えています。漁業者の経験を生かして基礎研究に貢献できるのはこの上ない喜びです」

びわ湖の歴史ひもとく手がかりに

今回、びわ湖の沖合にある「湖底の山」からカワニナが見つかったことは、びわ湖の歴史をひもとく手がかりになる可能性もあると期待されています。

滋賀県立琵琶湖博物館などによりますと、現在のびわ湖がある場所は湖ができる前、深い谷と山が連なる地形で、およそ40万年前以降、びわ湖の西側を通る断層の運動によって徐々に沈み、西側から東側へと湖が広がることで、現在の湖ができたと考えられています。

また、この沈み込みの過程でかつての山の一部が湖に水没し、「湖底の山」を形成したと考えられるということです。

ただ、カワニナが見つかった「湖底の山」がいつ水没したのかなど、詳細については現時点では分からないことが多いということです。

そこで、「湖底の山」の歴史をひもとく手がかりとして期待されているのが、山頂付近から見つかったカワニナの遺伝情報です。

カワニナの遺伝情報を確認する澤田さん

東京大学の澤田直人特任研究員によりますと、遺伝情報を解析することで、カワニナの種がびわ湖の歴史のどの時代から存在しているのかなどの手がかりが得られ、そこから当時の生息環境を類推できる可能性があるということです。

澤田さんはカワニナが「湖底の山」にたどりついたシナリオとして、
▼山が湖に水没する過程でカワニナが頂上に取り残されたケースや、
▼何らかの理由で流れ着いたケースを想定しています。

こうしたことから、びわ湖に多様な種が存在するカワニナを比較、研究することは「湖底の山」の成り立ちなど、びわ湖の歴史をひもとく手がかりになる可能性もあると期待しています。

澤田直人特任研究員
「すべてのカワニナに名前を付けてそれらの関係を明らかにしたうえで、何万年くらい前に種が分化したのかを明らかにできれば、びわ湖の歴史も分かってくると思うので、そうした研究をしていきたい」

(富山放送局 記者 山内洋平)

おはよう日本 8月17日(日)放送予定

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