アメリカのFRB=連邦準備制度理事会はトランプ大統領が繰り返し利下げを求める中、16日から金融政策を決める会合を開き、日本時間の18日未明に結果を発表します。
金融市場ではFRBが雇用の減速を踏まえて景気を下支えするためいまのトランプ政権の下で初めてとなる利下げに踏み切るとの観測が強まっています。
記事の後半には飯田香織解説委員の解説も掲載しています。
FRBは16日から2日間、金融政策を決める会合を開いていて、日本時間の18日午前3時に結果を発表します。
金融市場ではFRBがこのところのアメリカの雇用統計で経済を支えてきた雇用の減速が鮮明になっていることを踏まえて景気を下支えするため0.25%の利下げに踏み切るとの観測が強まっています。
トランプ大統領はFRBに対してこれまで繰り返し利下げを求めていて、FRBが利下げを決めれば去年12月以来、6会合ぶりで今のトランプ政権の下では初めてとなります。
一方、アメリカの先月の消費者物価指数の上昇率は前の年の同じ月と比べて2.9%と、7か月ぶりの高い水準となり、トランプ政権の関税措置による影響がじわじわと広がっているという見方も出ています。
FRBが雇用を重視して利下げを進めればインフレが再び加速するリスクも指摘されていて、会合終了後のパウエル議長の記者会見での発言が注目されています。
雇用減速が鮮明に 相次ぐ人員削減
アメリカ経済を支えてきた雇用の減速が鮮明になっています。
中西部イリノイ州に本社を置き、世界各地で事業を手がける大手農業機械メーカーは先月、3つの工場であわせて238人の従業員を解雇すると発表しました。
農業機械を購入する多くの農家や生産者が困難な状況に直面していて受注が減少していることが主な要因だとしています。
この会社では、関税措置によってことしは6億ドル、日本円にして880億円余りの損失を見込んでいると伝えられています。
また、クリスマスツリーをオンラインなどで販売する企業はことし3月、従業員360人あまりのおよそ1割にあたる人員を削減しました。
この会社では中国などからツリーや装飾品などを輸入し、一般家庭のほか、ホテルやオフィス向けに販売しています。
トランプ政権の関税措置が発動される前に在庫を大幅に積みましたが、今では製品の輸入コストが10%以上上昇するなど、大きな打撃を受けています。
会社では、従業員の昇給や出張の凍結に加え、ランチサービスの廃止などコスト削減を徹底しましたが、関税による上昇分を吸収しきれず2006年の創業以来、初めて大規模な人員削減に踏み切ったということです。
マック・ハーマンCEOは「この会社を築くために力を尽くしてくれた人々に別れを告げなくてはならなかったのは20年間で最悪の日でした。クリスマスを前に需要のピークとなる10月下旬から11月に消費者が確かな自信を持つようになることを祈っています」と話していました。
高級車の販売店 利下げへの期待感で販売増
利下げへの期待感が高まる中、輸入する高級車の販売店ではトランプ政権の関税措置を受けて値上げに踏み切ったあとも好調な売り上げが続いています。
アメリカ西部ソルトレークシティーにある自動車の販売店では、ドイツから日本円にして1台数千万円の車を輸入しています。
ことし6月までの売り上げは前年を5%上回っていて、7月にはトランプ政権の関税措置を受けて多くの車種で4%近い値上げに踏み切りましたが売り上げに影響はみられないといいます。
ことし1年間の売り上げは前年を10%上回ると見込んでいて、好調な業績を背景に3500万ドル、日本円にして50億円あまりを投じて新たな店舗を建設する工事を進めています。
アメリカでは個人消費や企業の設備投資が堅調で、ことし4月から6月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた伸び率で年率に換算してプラス3.3%となっています。
またFRB=連邦準備制度理事会のアトランタ地区連銀が公表した最新の予測ではことし7月から9月までのGDPの伸び率はプラス3.4%と堅調さを維持する見通しとなっています。
こうした堅調な個人消費の背景にあるのが資産価格の上昇です。
FRBの利下げへの期待感から株価は今月に入って何度も最高値を更新していて、前向きな動きが個人消費を下支えしているという見方もあります。
販売店の担当者は「株式市場は成長を続けていて、近いうちに金利も大幅に下がっていくだろう。アメリカ経済の先行きについてもとても楽観的だ」と話しています。
専門家「雇用減速の説明が非常に重い意味」
FRBの会合の注目点や日本経済への影響について元三菱UFJ銀行のエコノミストで、日米の金融政策に詳しい鈴木敏之氏に聞きました。
鈴木氏はこのところのアメリカの雇用統計で農業分野以外の就業者数が大幅に下方修正されたことなどを踏まえて「FRBは雇用について急に心配になってきているような状態だ。放っておくわけにいかず、何らかの政策対応をしなければいけない」と述べ、FRBが今回の会合で利下げに踏み切るとの見方を示しました。
鈴木氏は注目点として「急に落ちてしまった雇用の数字についてFRBがどう分析しているのかこの説明が非常に重い意味を持つ」と述べ雇用の減速に関するFRBの分析が重要だとの考えを示しました。
一方、日本経済への影響については、FRBが仮に急速に利下げを進めた場合、「金融市場では日米の金利差が縮小し為替相場が円高に動くことが意識されることになる」と指摘しました。
そのうえで「トランプ政権の関税措置によって輸送機械や自動車の産業などはすでに影響を受けているため円高の圧力が重なれば日本の景気の先行きについてこれまでとは違う心配をしなくてはならなくなる」と述べ、FRBの金融政策が金融市場などを通じて日本経済に及ぼす影響を注意して見ていく必要があると警鐘を鳴らしました。
【動画】飯田香織解説委員の解説(9分38秒)
17日「キャッチ!世界のトップニュース」で放送
※データ放送ではご覧になれません
金融政策の行方やFRBの今後について、経済担当の飯田香織解説委員が解説します。
Q1 FRBは今回、政策金利を引き下げると見てよいのでしょうか?
投資家の間では、FRBが今回の会合で、政策金利を0.25%引き下げるという見方が強まっています。「ほぼ確実」という人もいます。FRBは、政策金利は4.25%から4.5%の幅で据え置いてきました。今回、利下げに踏み切れば、去年12月以来、6会合ぶりということになります。それもトランプ大統領が再任されてからは初めてになります。
Q2 実際に利下げすれば、アメリカの金融市場にはどんな影響があるのでしょうか?
今回の利下げについて、金融市場は好意的に受け止めていて、すでに織り込んでいます。このため、10月と12月の会合で利下げするのかどうか、といった今後の金融政策が焦点となります。そもそも、金利は低いほうが企業も個人も資金を借りやすくなることから、来年の中間選挙に向けて、利下げによって景気を拡大したいというのがトランプ大統領です。
一方、インフレが加速しては困るとして利下げに慎重だったFRBのパウエル議長との間で緊張関係が続いてきました。それを象徴したのが、7月のこちらの場面です。トランプ大統領は、ビル改修工事が進められているFRB本部に乗り込みました。“不動産王”とも言われたトランプ氏は、ヘルメット姿も工事現場を歩き回る姿も、何だか慣れた様子です。急きょ対応に追われたパウエル議長に対して、直接「金利を下げてほしい」とかなり露骨に圧力をかけました。トランプ大統領は「利下げしてほしい。ほかに言うことはないよ」と話しました。
Q3 今回は利下げするということで、パウエル議長がついにトランプ大統領に屈するということでしょうか?
中央銀行の威厳にかけて、そう見られないようにするはずです。FRBは、利下げしない理由として、トランプ関税の影響を挙げていました。つまり、アメリカ国内の物価が上がることが予想されるというわけです。11日に発表された8月の消費者物価指数は、確かに、前の年の同じ月と比べて2.9%の上昇となりました。7か月ぶりの高い水準で、トランプ関税の影響がじわじわと広がっているという見方も出ています。
一方、5日に発表された8月の雇用統計では、労働市場の減速が鮮明となりました。現段階では、こちらのほうが心配されています。パウエル議長は繰り返し「経済データを重視する」と言っており、利下げする場合は、あくまでも経済データを理由にするはずです。
Q4 FRBでは、利下げをめぐってメンバーの間で意見が分かれるなど、さまざまな問題が起きていますよね?
FRBの金融政策を決める前回、7月の会合では、メンバーのうち2人の理事が利下げを支持して、政策金利の据え置きに反対する異例の状況になりました。こちらのバウマン氏とウォラー氏です。この2人は、トランプ大統領が1期目に指名しました。その後、バイデン前大統領に指名されたクグラー理事が任期途中で辞任し、その後任が注目の人物です。スティーブン・ミラン氏です。ミラン氏は42歳。トランプ大統領の側近で、現在、アメリカ経済の現状分析と政策の立案を担う大統領経済諮問委員会の委員長です。日本時間の16日、議会で承認されたばかりで、今回の会合が初参加となります。先週の議会証言では「大統領の言いなりにならない」という姿勢を強調しました。
ミラン氏は「中央銀行の独立性が重要だ。アメリカ経済と金融市場のためにもだ」「大統領が私を指名したのは私の政策が好みだからだろう」「理事に承認されれば独立した立場で判断する」などと話しました。ミラン新理事は「独立した立場で判断する」と繰り返し言っていましたが、政権の役職を辞任せずにFRB理事に就任するため、中央銀行の独立性を脅かすものだと、早速、批判されています。
トランプ大統領の意向、つまり政治の介入によって金利が決まるようでは、経済が混乱することが懸念される、というわけです。
Q5 クック理事をめぐっても、揺れていますよね。
トランプ大統領は先月、クック理事を解任すると明らかにしました。「住宅ローンをめぐる不正があった」とトランプ大統領は主張していて、“トランプ派”の理事を後任に据えようとしているとみられています。現在、裁判で争われていて、クック理事は、今回の会合に出席することが直前に決まりましたが、トランプ大統領は、FRBをまるで乗っ取るかのようです。
Q6 パウエル議長の後任選びについては、動きがあるのでしょうか。
パウエル氏を2018年2月に議長に指名したのはトランプ大統領です。議長としての任期は来年5月までです。トランプ大統領は利下げに応じないパウエル議長をこれまで「遅すぎる男だ」「クビだ!」として、後任人事を進めてきました。
今月5日、ホワイトハウスで記者団に対し、次期FRB議長の候補について“トップ3”に絞り込んだと言っています。トランプ大統領は「その3人がトップ候補といっていいだろう」と話しています。
3人は
▽ホワイトハウスで経済政策を助言する国家経済会議の委員長のケビン・ハセット氏
▽FRB元理事のケビン・ウォーシュ氏
▽7月の会合で利下げを支持したFRB理事のクリストファー・ウォラー氏です。
「2人のケビン」のうち、ケビン・ハセット氏には何度かインタビューしたことがあります。ワシントンの保守系シンクタンクの研究員だったころ、金融政策について取材に行くと、丁寧に対応してくれましたが、独立性についてパウエル議長ほど信念があるかどうかは分かりません。
Q7 「FRBの独立性が危ぶまれる」ということですが、具体的にどんなことが懸念されるのでしょうか?
政策金利は低い方が景気にとってよい、と思っていた大統領はこれまでもいましたが、ここまで露骨に口に出して、人事を通じて圧力をかけたのは、トランプ大統領が初めてだと思います。
圧力に屈して利下げをすると中央銀行が政治の道具として見られ、ドルの信認が失われ、何が起きるか予測できないとしてドル離れが起きかねません。
FRBの独立性にも関心が集まるなか、今回の会合はかつてないほど緊迫することが予想されます。
会合のあと発表される声明、その後の記者会見で、パウエル議長が物価や景気の見通しだけでなく、根幹となるFRBの独立性についてどんな発言をするのか、いつも以上に注目です。