AI=人工知能を暮らしの中で使う機会。皆さんも増えていないでしょうか。
その利用は「子育て」にも広がっていますが、注意も必要だとか。
専門家に聞いた内容は、後段で詳しくまとめています。
(社会部記者 平井千裕)
広がる保護者の“AI育児”
東京 江東区で子ども連れの保護者に「AIを使っていますか?」と聞いてみました。
すると育児に使っているという人たち、結構いました。
生後1か月の赤ちゃんを育てる母親
「ミルクを飲む量とか大丈夫かなと不安になった時とかに相談相手みたいな感じでAIに聞いています。人間と会話しているみたいでこちらの気持ちも聞きながら回答してくれるのでいいなと思います」生後2か月の赤ちゃんを育てる父親
「例えばミルクの容量とか、睡眠時間とかは、通常どおり調べると、いくつも検索ページを開かないといけないと思うんですが、AIを使うとたくさん調べる手間が省けるのでいいなと思います」1歳の男の子を育てる母親
「子どもが唇をけがした時に治療法を聞いてみたりすると、結構こまかく丁寧に教えてくれるんです。すごく早く回答してくれるので助かります」
民間調査~およそ3割利用
ことし5月、保護者564人に行われた育児支援サイトの運営会社の調査では、育児にAIを「よく使う」または「時々使う」と回答したのは、167人で、3割近くに上っています。
具体的な活用法を聞くと、
▽育児の悩み相談が最も多く、
次いで、
▽育児の記録や生活リズムの管理、
▽子どもの体調や症状の相談、
▽愚痴や不安を話す・気分転換など
となっています。
保護者の“AI育児”の実態は?
都内で、2歳と0歳の子どもを育てている母親が取材に応じてくれました。
日中は夫が不在のため「ワンオペ」で育児することが多いといいます。
近くに頼れる人がいない中で、半年ほど前からスマホのアプリを使ってAIに育児のことを相談するようになりました。
アプリにあらかじめ年齢や性格など家族の情報を登録しておき、具体的な相談内容を入力すると、オーダーメイドのアドバイスが送られてきます。
母親
「私の場合、朝から晩まで1人で育児をこなすことが多いので、相談相手となるとAIが最初にぱっと浮かんでしまいます。誰にも言えないようなことをAIには気さくに言えるのですごい強い味方みたいな感じです」
具体的には「上の子が最近暴力的で悩んでいる」と相談すると、AIから「2歳児が下の子に手を出したり乗っかったりするのは異常行動ではありません。日中3回は笑顔で遊ぶなど“安心貯金”を増やそう」といった前向きなアドバイスが送られ、不安が和らいだといいます。
このほかの相談内容を見せてもらうと、だっこの方法から、子どもが好きなチョコレートのレシピ、さらに、ミルクを吐き戻した時どうすればいいかといった相談が並んでいました。
一方、AIの活用に悩んだこともあるといいます。
「授乳中に痛み止めの薬を飲んでもよいか」と相談しようとしましたが、安全安心に関わる内容のため、結局見送ったといいます。
母親
「医学的なこととか自分の体や子どもの体に関することについて、AIを過信するといけないなと思います。情報の根源はネットで、正確ではないときもあるので、返ってきた文章を注意深く読んで内容が合っているかどうか確認するようにしています」
AI活用は各地の自治体にも
子育て分野でのAIの活用は各地の自治体にも広がりつつあります。
奈良市では、ことし5月から子育てに悩みを抱える保護者を支援するため、生成AIを活用した実証実験を始めました。
相談の際、LINE上で、生成AIか社会福祉士などの専門の相談員のどちらかを選ぶことができます。
専門の相談員は平日の日中しか対応できませんが、生成AIは24時間相談を受け付けることができ、緊急性が高いと判断した場合には24時間対応の市の窓口を案内する仕組みです。
実証実験はことし12月末まで行われ、相談内容の傾向などを分析したあと、本格運用を目指すということです。
また、福井県では来月から子育て支援策などの問い合わせ対応に生成AIを試験導入するほか、大阪府豊中市は生成AIを活用した「子育て相談チャットボット」を実証実験することにしています。
AIを使った育児の広がりと注意点については
AIを使った育児の広がりと注意点について専門家に聞きました。
東京大学の吉田塁准教授(教育分野の生成AI活用に詳しい)
Q
育児にもAIを使う人が増えている背景は?
A
これは子育て世帯に限りませんが、かなり高性能の生成AIが無料で誰でも使えるという環境が整ってきたことが大きいと思います。
生成AIの特徴として、回答をポジティブに返してくれる、24時間使うことができ相談のハードルが低い、ことなどが挙げられます。
たとえば育児の愚痴などをAIに聞いてもらうことで、精神的な負担を軽減するといった使い方もあるかもしれません。
Q
子育ての相談をする際のリスクはないのでしょうか?
A
そもそも前提として、生成AIにはデタラメが入り込むことがあるので、注意深く見ないと情報の誤りに気づけない可能性もあります。
最終的に責任を持つのは人間側なので、子どもの体調や食事などについて相談する際には、その分野の専門家に意見をもらったり、信頼できる情報源で確認したりすることなどが大切です。また、可能性はかなり低いですが、個人情報が流出するリスクもゼロではありません。
心配な人は設定を切り替えてAIにやりとりを学習させないようにしたり、子どもや家族の個人情報をそもそも入力しないよう気をつけたりするとよいかと思います。
Q
このほかの注意点は?
A
過度な依存にも注意が必要です。
AIは人間が好むような回答をするようにトレーニングされているところがあるので、心地いい言葉が返ってきやすい傾向にあるためです。
時折、AIの回答を信じ込みすぎていないか、無批判に受け入れていないかという形で振り返ってもらえるとよいかと思います。
Q
活用にあたって知っておくとよいAIの特性があれば教えてください。
A
「AIは全知全能ではない」ということです。
たとえば年号を間違えるなど数字に弱いところもあるほか、最新のモデルでも簡単な画像の問題を間違えたりすることがあります。
少し前までは、医師の国家試験に合格できるような高性能のAIのモデルでも5×5のかけ算ができない、といったことがありました。
特定分野の能力は非常に高いものの、そうでない分野は全くダメということもあります。
つまり、際だった性能だけをみて「AIは何でもできる」と思わないほうがよいということをお伝えしたいです。
Q
そうした性質を理解したうえでAIをうまく活用するにはどうすればよいでしょうか。
A
今後、生成AIが使われない世の中というのはあまり考えられず、生成AIは社会インフラの一つになる可能性が非常に高いと思います。
そうした点を踏まえても、利用者側が表示される情報をうのみにせず、物事を批判的に考える力を高めていくことが重要だと感じています。
子育ての相談をした際にAIが重大な事故だったりけがにつながりうる回答を出してくることもゼロではないはずで、そういった内容が含まれていたときに見抜けることが大切です。
不安に思う方は、AIを利用する前に、大学などで開かれている講義やオンラインのセミナーなどに参加してみてもいいかもしれません。
AIはあくまでも参考意見をくれるパートナーや相談相手のような存在であって、いつなんどきも、最終判断は自分自身で行うもの。
そのように認識してもらえるとうまく使いこなせるのではないかと思います。