
シリア 首都の暫定政府軍本部へのイスラエル軍空爆を強く非難
イスラエル軍は16日、隣国シリアの首都にある暫定政府の軍本部などを空爆しました。イスラエルと関係の深い少数派の保護などを理由にしていますが、シリア側は「われわれの土地を混乱の舞台に変えようとしている」と強く非難し、緊迫した状況が続いています。
イスラエル軍は16日、隣国シリアの首都ダマスカスにある暫定政府の軍の本部などを空爆しました。
シリアの暫定政府は、一連の空爆で3人が死亡、34人がけがをしたとしています。
イスラエル軍のザミール参謀総長は声明の中で、攻撃は、少数派のイスラム教ドルーズ派の住民を保護するとともに、敵対する勢力を国境地帯から排除するためだと強調しました。
シリアでは今月、南部スウェイダで地元の遊牧民とドルーズ派の住民が衝突し、これに介入するとして派遣されたシリア暫定政府の軍の部隊を、イスラエル軍が攻撃する事態となっていました。
イスラエルによる攻撃について、シリアのシャラア暫定大統領は17日、テレビ演説で「イスラエルは再び、われわれの土地を果てしない混乱の舞台に変えようとしている」と強く非難しました。
シリアの国営通信は16日夜、暫定政府と宗教指導者の間の合意に基づいて、南部に派遣された部隊が撤退を開始したと伝えています。
一方で、イスラエル側は、必要があれば攻撃を続けるとしていて、緊迫した状況が続いています。
ドルーズ派とは
ドルーズ派は、イスラム教シーア派から派生した少数派で、シリアやイスラエル、レバノン、イスラエルが占領するゴラン高原に、合わせておよそ100万人が暮らしています。
その半数はシリアに住んでいて、今回、地元の遊牧民との衝突が発生した南部には多くのドルーズ派の住民がいます。
ドルーズ派は、2011年に始まったシリア内戦では、南部で独自の民兵組織を持っていたほか、アサド政権の崩壊後も、暫定政府の治安部隊の駐留に多くの住民が反対し、民兵組織を維持しているとされます。
また、イスラエル国内とゴラン高原には、およそ15万人のドルーズ派の住民が暮らし、イスラエルの兵役にも従事していて、ほかのアラブ系住民とは一線を画した立場です。
イスラエルのカッツ国防相は、シリアの暫定政府に対する攻撃にあたって、「イスラエルはシリアのドルーズ派への危害を防ぐために力を尽くす。イスラエルに住むドルーズ派との深い兄弟的な同盟関係や、彼らが持つシリアのドルーズ派との家族的、歴史的なつながりによるものだ」とSNSに投稿し、ドルーズ派との深い関係を強調しました。
専門家 “イスラエルは攻撃の大義名分を見いだした”

イスラエル情勢に詳しい東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授は、イスラエルがシリアへの攻勢を強めている背景について、「シリアでは去年12月の政権崩壊のあと、新たに発足した暫定政府が全土を十分に掌握できていない。その間にイスラエルは、近接するシリア南部に非武装地帯・緩衝地帯を設けようとしている。一方的に緩衝地帯を設定して、武装勢力やシリアの国軍が入ってくることを防ぐねらいがある」と指摘します。
イスラエルが少数派のドルーズ派の保護を掲げて攻撃を行っていることについては「少数派の保護は、シリアの暫定政府の正当性に関わる問題となっている。イスラエルは、ドルーズ派の保護を軍事的に攻撃を加える大義名分として見いだしているのが実態だ」と分析します。
また、アメリカのトランプ政権がイスラエルとシリアの国交正常化を働きかけるなか、今回の攻撃が行われたことについては「みずからの安全を確保したいというイスラエルの意図と、中東地域全域に経済圏を確立したいというトランプ政権の意図が鋭く対立する状態にある」と指摘したうえで、「シリア情勢をめぐり、イスラエルとアメリカがどのような落としどころを見いだしていくのかが、今後の情勢の大きなカギになる」と述べました。
ガザ地区で攻撃継続 配給場所付近でこれまでに851人死亡
イスラエル軍はパレスチナのガザ地区で攻撃を続けていて、地元の保健当局は16日、過去24時間に94人が死亡したと発表しました。
またガザ地区で食料を配給するアメリカ主導の「ガザ人道財団」は16日、配給場所のひとつで住民が殺到し、踏みつけられるなどして20人が死亡したと発表しました。
財団の食料配給をめぐっては、これまでガザ地区の保健当局が配給場所付近でイスラエル軍の発砲などによりこれまでに851人が死亡したと発表していますが、アメリカのCNNテレビによりますと、財団が犠牲者が出たことを発表するのは初めてです。