クマ被害 市町村判断で特例的に市街地などでの猟銃使用可能に
クマの市街地への出没や人への被害が相次ぐ中、人の生活圏でクマなどが出没した際に市町村の判断で特例的に市街地などでの猟銃の使用が可能となる改正法が1日、施行されました。

1日に施行された改正鳥獣保護管理法では、
▽クマなどが人の生活圏に侵入しているか、侵入のおそれが大きい場合で、
▽緊急性があり、
▽迅速に捕獲できる手段がほかになく、
▽人に弾丸が到達するおそれがないという、4つの条件をすべて満たした場合に猟銃の使用が可能になる「緊急銃猟」という制度が創設されました。
法律の改正前は、住宅が密集している地域などでは猟銃を使用することは禁止され、人に危険が生じるといった緊急時のみ、「警察官職務執行法」に基づいた警察官の命令などで猟銃が使用されていました。
しかし、人の生活圏でのクマの出没が増える中、より予防的かつ迅速な対応が求められることから、法律が改正され、市町村の判断で行うことになりました。
市町村は猟銃の使用をハンターに委託でき、猟銃を使用する前には、周辺の住民の通行制限や避難指示などを行って安全を確保することが求められます。
また、コンクリートなどに当たって弾丸が跳ね返るおそれがないかや、弾丸が後方などに飛んでいくことを避ける「バックストップ」が確保されているかなどを確認する必要があります。
それでも物的損害や人身事故が生じた場合はハンターではなく、市町村が損失を補償・賠償するとしています。
環境省は、ことし7月にガイドラインを公表し、市町村に対し、マニュアルの作成や訓練の実施、それに損害が出た場合に備えた保険の加入を推奨しています。
クマ市街地駆除の新制度 詳しく【Q&A】
Q.改正法施行の背景は?
A.近年、ヒグマやツキノワグマ、イノシシの人の生活圏への侵入が相次いでいて、人身被害も多く発生していることが背景にあります。
とりわけ、令和5年度には、クマによる人身被害の件数が過去最多となり、早急な対策強化が求められていました。
Q.今年度のクマ被害は?
A.環境省のまとめではことし4月から7月末までにクマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は長野県が13人、岩手県が12人、秋田県、福島県、新潟県でそれぞれ4人などの合わせて55人となっています。
このうち、北海道と岩手県、長野県でそれぞれ1人、合計3人が死亡しました。
過去の同じ時期と比べると、年間を通じて過去最多の被害者数となった2023年度は56人で、今年度はほぼ同じ水準となっています。
また、学校やその周辺でもクマの出没が相次いでいて、命を守るための対策が引き続き求められています。
Q.改正法の施行によりどのような場面で猟銃が使用されるようになる?
A.場所としては主に、クマなどが建物に侵入している場合や、農地、河川敷が想定されています。
猟銃の使用に当たっては、人に弾丸が到達するおそれがなく安全性が確保されていることなど4つの条件をすべて満たす必要があり、どんなケースでも猟銃が使用できるわけではありません。
猟銃の使用の判断は市町村が行い、実際の発砲は、ハンターに委託でき、市町村は事前に避難誘導や通行制限などを行います。
Q.ハンターに求められる要件は?
A.要件は免許を持ち、1年に2回以上、銃を用いた猟または射撃の練習をしていること、過去3年以内に市街地などで使用する銃と同じ種類の銃を使用して、クマやイノシシ、二ホンジカの捕獲を行った経験などがある人です。
ハンターをめぐっては、全国的に数が減少しているという課題があります。
環境省によりますと、ライフル銃や散弾銃を使用するために必要な「第一種銃猟」の免許を取得している人の数は、1985年度は29万7000人でしたが、2020年度には9万人に減っているということです。
Q.自治体は改正法施行に向けてどんな準備を進めているの?
A.一部の自治体では市街地でクマが出没したという想定での訓練を行っています。例えば、新潟県新発田市では、8月25日に、市職員のほか警察や猟友会のメンバーなど合わせておよそ50人が参加した訓練が行われ、人が近づかないように周囲の道路を閉鎖したり、広報車を使って住民に避難を呼びかけたりするなど、一連の流れを確認していました。
また、万が一、猟銃の弾が建物に当たるなどの損害が出た場合に備えて、保険に加入する動きも出ています。
保険商品を販売している大手損保会社によると、8月までに100以上の自治体から保険に加入したいという連絡があったということです。

Q.今後の課題は?
クマの生態に詳しい東京農工大学大学院の小池伸介教授は次のように指摘しています。
【1.自治体職員の専門性】
自治体の鳥獣担当職員が必ずしも鳥獣に対する専門的な知識を持っているとは限らない。異動もあり長期にわたって担当するわけでもなく、そうした人が発砲の判断をしなければいけないというのは職員にとって負担が大きい。自治体が鳥獣の捕獲に専門的に従事する職員を雇用することや時間がかかっても職員を育成していくことが必要だ。
【2.侵入経路を塞ぐなど市街地に入り込めない対策】
野生動物が市街地に出没するのは何かしらの理由がある。原因が残っているかぎりは1回駆除しても何回も動物の侵入が繰り返される。やぶを刈り払うなど侵入経路を遮断して簡単には森から人里・市街地に入り込めないよう根本的な対策をしなくては市街地出没の問題は解決しない。
【3.平時からの対策を】
市街地に出没させないために長期的に何をしなくてはいけないかをもう1回見つめ直し、人材育成や住民への啓発などそもそも森から動物を出さないための対策を平時から進めなくてはならない。