職場での熱中症対策がことし6月、企業に義務づけられましたが、NHKが全国の労働局に取材したところ、ことし7月までの3か月間に速報値で458人が職場で熱中症になったことがわかりました。このうち、北海道や東北を中心に全国のおよそ3分の1にあたる16の道と県では去年の同じ時期を上回っています。
8月以降も働く人の熱中症が相次いでいるということで、厚生労働省は「初期症状が出たら、すぐに対応することが重要だ」として対策の徹底を呼びかけています。
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“職場での熱中症対策”企業に義務づけも労災あとを絶たず

全国の職場で熱中症になり労働者が死亡、または4日以上休んだ労働災害について、ことし5月から7月末までの状況を全国の労働局に取材しました。
それによりますと、速報値で
▽5月が19人
▽6月が176人
▽7月が263人
あわせて458人となり、このうち、4人が亡くなっています。
去年の同じ3か月間の確定値は663人で、このうち亡くなった人は17人でした。
しかし、都道府県別に見ると、ことしは北海道と東北地方の6県、栃木県、群馬県、福井県、岐阜県、滋賀県、広島県、愛媛県、高知県、長崎県と全国のおよそ3分の1にあたる16の道と県で去年の同じ時期を上回っていました。
【年代別】
▽60代以上…127人
▽50代…117人
▽40代…72人
▽20代…68人
▽30代…61人
▽10代…13人
業種別では、
▽警備やビルメンテナンス、産業廃棄物の処理などの「ほかに分類されないサービス業」が88人で最も多く
▽「建設業」と「製造業」がそれぞれ83人
▽「運輸業」が68人
などとなりました。
熱中症のおそれがある労働者を早く見つけて対処することで重篤化を防ごうと、ことし6月に職場での熱中症対策が企業に義務づけられましたが、ことしも熱中症による労働災害が後を絶たない状況です。
8月以降も働く人の熱中症が相次いでいるということで、厚生労働省は「暑い日が続いているが、熱中症は重篤な場合、死に至るケースもある。初期症状が出たら、すぐに対応することが重要だ」として、対策の徹底を呼びかけています。
前年比より増加した16道県と具体的事例は?
都道府県別にみて、ことし5月からの3か月間に職場で熱中症になった人数が去年の同じ時期を上回ったのは全国のおよそ3分の1にあたる16の道と県でした。(※カッコ内は増えた人数)
▽北海道が16人(+4)
▽青森県が8人(+6)
▽岩手県が8人(+4)
▽宮城県が9人(+1)
▽秋田県が5人(+3)
▽山形県が5人(+2)
▽福島県が17人(+6)
▽栃木県が10人(+1)
▽群馬県が12人(+3)
▽福井県が4人(+2)
▽岐阜県が11人(+3)
▽滋賀県が8人(+4)
▽広島県が20人(+11)
▽愛媛県が12人(+8)
▽高知県が5人(+1)
▽長崎県が14人(+3)
各地の労働局によりますと、直射日光の下で作業していた人だけでなく、屋内であっても体調不良や水分の摂取不足、疲労の蓄積で熱中症を発症した人がいたということです。
さらに、室内の気温が27度でも湿度が50%と蒸し暑かったり、荷物の配送先が高温や多湿、風通しが悪い屋内だったりして熱中症になった人もいたということです。
職場の熱中症対策 義務化の内容は?
厚生労働省は、職場の熱中症で死亡した人のほとんどが初期症状の放置や対応の遅れだったことなどを背景にことし6月、企業に対策を義務づけました。
具体的には、企業に対して
▽熱中症のおそれがある人を見つけた場合などの連絡体制を整備し
▽体を冷やし、医療機関への搬送手順を決めて
▽こうした内容を働く人に周知
することなどを求めています。
対象となるのは
▽「暑さ指数」が28以上か、気温が31度以上の環境で
▽連続1時間以上、または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業
です。
熱中症で体調不良続く男性「初期症状を甘く見ないで」
熱中症になり今も体調不良が続くという都内の50代の男性は、初期症状を甘く見ないでほしいと話しています。

都内に住む50代の男性は7月下旬、仕事を終えて帰宅した直後、汗が出て、頭痛や疲労感などの症状がありました。水分をとりながら様子を見ましたが、2日たっても回復しないため、クリニックを受診したところ熱中症と診断されたということです。
男性は、勤務先では冷房が効いていたものの水分の摂取が十分ではなかったことや、休みの日に炎天下を歩いたことが原因ではないかと考えています。今でも関節痛や手足のしびれ、指が震えるなどの体調不良があり、医師から熱中症の後遺症の疑いがあると診断され、現在までおよそ1か月、仕事を休んでいます。
熱中症になった都内 50代男性
「熱中症の初期症状が出たあとも水分はとったが食事はとれていなかった。すぐに医療機関に行かなかったので、長引いてしまったと後悔している。熱中症を甘く見ないで」
労働局が作成「初期症状のチェックシート」活用を
働く人を守る上で、いち早く熱中症に気づき処置することが課題となる中、神奈川労働局は手足のしびれやけいれん、めまいなど熱中症についての具体的な初期症状を記したチェックシートを新たに作り、職場での活用を呼びかけています。

神奈川労働局が作成したチェックシートは
▽手足の筋肉がぴくぴくする
▽足がつる
▽手足のしびれ
といった軽度の症状から、
程度が重くなるにつれて現れる
▽全身のけん怠感、吐き気、頭痛
▽呼吸の回数の増加や脈が速くなる
といった症状が具体的に記されています。
熱中症はなるべく早い処置で重症化を防ぐことができますが、労働局が職場で実際に熱中症になった人に聞き取りをしたところ、ほとんどの人が「熱中症になったことを自覚することが難しい」と答えたということです。
そこで、働く人が仕事の開始前や休憩の後に初期症状がないか自分で確認することができるこのシートを作りました。どれか1つでも当てはまる項目があれば、すぐに作業から離れて体を冷やすなどの適切な処置を受けるよう呼びかけています。
※このチェックシートは神奈川労働局のホームページに掲載されています。
神奈川労働局健康課 赤前幸隆主任専門官
「熱中症とは何かを知ってるようで知らない人が多いことを感じて作成した。自身の体に異常が見られた場合には遠慮なく会社の担当者に報告して適切な対応をとってほしい」
手首に巻きつける電子機器導入で対策する企業も

熱中症の初期症状に従業員自身がいち早く気づくことで、身を守る取り組みを進めている企業もあります。
大手の宅配会社では、ことし6月から手首に巻きつけて熱中症のリスクを検知する新たな電子機器を試験導入しました。この機器は脈から体の内部の温度を予測して熱中症のリスクを黄色や赤色の光や振動などで伝えます。
現在、トラックのドライバーや荷降ろしの作業員などおよそ2500人が使っています。会社によりますと、配達は1人で行うことが多いため周囲の人が熱中症に気づけず、作業に集中してしまうとちょっとした体調の異変を見逃すおそれがあるため、この機器の活用を決めたということです。
これまでにドライバーから「ふだんより意識して水分補給が出来た」という声があり、来年度以降、本格的に導入するか検討することにしています。
この会社では、熱中症対策としてこのほかにもことし6月から運転の妨げとならないよう空気を取り込むファンの位置を体の側面にずらした改良型のベストの貸し出しや、「暑さ指数」の測定器を全国のおよそ2900か所の営業所に設置しています。
30代 配達員
「作業中に機器が黄色に光るといつもより早く水を飲んだり、塩あめをなめたりして対策が出来ました。熱中症のリスクに気がつければ水分もしっかりとれるので安心できます」
遊園地は屋内外入れ替えで対策

東京 台東区の遊園地は、熱中症対策の一環で、ことし6月下旬から従業員が涼しい場所で働く時間を増やす取り組みを始めています。
この遊園地にはおよそ20種類のアトラクションがあり、半分が屋外に、残りが屋内にあります。ローラーコースターや、メリーゴーラウンドのようにプールの上を白鳥の形をした乗り物で回るアトラクションなどは、機械を安全に動かしたり利用する客を誘導したりする必要があり、屋外での熱中症対策が課題でした。
そこで、どのアトラクションがどのくらい暑いのか従業員の意見を聞いて順位づけし、ことし6月下旬から暑い場所のあとは休憩時間を挟み涼しい場所で働いてもらうようにしました。
29日正午の時点で園内で2番目に暑い場所とされた「カーニバル」と呼ばれるアトラクションは気温が38度ありましたが、最も涼しい場所とされた「お化け屋敷」は26度でした。
2年目 20代従業員
「暑い場所から涼しい場所に行くと、消耗しきった体力がかなり回復するので、非常にいい仕組みだと思います」

このほかにも暑さの対策としてことし、直射日光があたる4つのアトラクションの床や座席を熱がたまりにくいという特殊な素材で塗装しました。
そして、ことしの夏も従業員は自動販売機の冷たい飲み物を1日2本まで無料で利用できるようにし、毎日午後2時に冷凍したおしぼりを従業員に届ける取り組みを続けています。
おしぼりを届けるときに体調に変化がないか聞き取りをしていて、遊園地によりますと8月、従業員の体調不良に気がつき、熱中症になる前に手当てができたケースがあったということです。
営業推進部 高橋ことのさん
「従業員が安心安全に働けるということは、お客様も安心安全で楽しい思い出につながると思います。ことし改善してよかった取り組みをさらにブラッシュアップして来年以降の暑さにも対応してきたい思います」
熱中症の初期症状と対策は【専門家Q&A】
職場の熱中症対策で課題となる初期症状の放置や対応の遅れ。救急現場で熱中症の対応にあたり、企業の産業医も務める東京曳舟病院の三浦邦久副院長に対策を聞きました。

【熱中症の主な初期症状は?】
頭がぼーっとするなどのふらつきやめまい、筋肉の痛みやけいれん、大量の発汗などです。こうした症状が出たらすぐに休む必要があります。高温多湿の環境にいたかどうかも重要で、医師に説明してください。
【なぜ気づきにくい?】
熱中症は脱水で起きますが、典型的な症状がわかりづらいことが原因だと思います。
二日酔いのような全身の疲れや、かぜや寝不足のような症状に近いため、熱中症と気づかず放置してしまう人もいるのではないでしょうか。入院した人の中には「自分が熱中症になると思わなかった」と話す人もいます。
熱中症は早期に発見し、早期に治療すればよくなる病気です。熱中症と認識せずそのまま放置しておくと後遺症に悩む人もいるし、亡くなるケースもあります。油断大敵です。
【気づきのヒントは?】
熱中症の予備軍とも言われる「隠れ脱水症」に気をつけることです。
朝起きたときと仕事や学校から帰ってきたとき、そして寝る前に体重を量ります。ダイエットをしていないのに明らかに減っていたら要注意。「隠れ脱水症」が一番わかりやすいのは尿の色で、ビタミン剤を飲んでいないのに色が濃い時は水分量が足りていない状態なので非常に危険です。
【症状が出たら?】
熱中症を疑う症状が出たら「FIRST」(ファースト)で対応してください。
▽「F」は液体を意味するFluid(フルード)
スポーツドリンクや経口補水液で水分を補給してください。意識がもうろうとしてペットボトルのふたを開けられないとか、意識がなく水を飲めないときは救急車を呼んでください。▽「I」は氷を意味するIce(アイス)
衣服をゆるめ氷や冷たいタオル、保冷剤などで体を冷やしてください。▽「R」は休憩を意味するRest(レスト)
涼しい場所に移動して休みます。▽「S」は兆候を意味するSign(サイン)
15分から30分ほどたっても症状が変わらないかどうか確認。改善しなければ最後の
▽「T」Treatment(トリートメント)
治療につなげることが必要です。119番通報して病院へ搬送してください。
【職場での対策ポイントは?】
体調不良だと言いやすい環境を作ることが大切です。みんなが頑張っていると自分だけ「ちょっとつらいです」とは言いづらいと思います。上司は部下を見て、いつもより作業に時間がかかっているようであれば、声かけをして休んでもらいましょう。
また、短時間でもいいので定期的な休みも重要です。水分補給をし、手洗いなどでしっかりと手を冷やせば効果的に体の中心部の深部体温も冷やすことが出来ます。成人は1日に2リットルほど水を飲んでほしいです。ただし、一気に飲むのではなく、休憩のたびにゆっくりと確実に飲んでください。普通の水だけだとナトリウム不足になるので塩分が入っているスポーツドリンクや塩昆布などもとってほしいと思いますが、高血圧の人はかかりつけの医師に相談してください。