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戦後日本の安全保障政策を大きく転換させた「安全保障関連法」の成立から10年となる今月、自衛隊とアメリカ軍の大規模な共同訓練が日本各地で行われています。

独自取材を通して訓練の現場を見ていくとこれまでにない自衛隊の変化が見えてきました。

今回の訓練「レゾリュート・ドラゴン」は

陸上自衛隊とアメリカ海兵隊などが9月11日から25日まで日本国内で行っている大規模な実動訓練、「レゾリュート・ドラゴン」。

日本語で「不屈の龍」と名付けられたこの訓練は2021年から始まり、5回目の今回は北海道、山口県、大分県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、沖縄県の1道7県で行われ、日米あわせて過去最多のおよそ1万9000人が参加しています。

防衛省関係者によりますと、訓練の想定は実在しない架空の大陸にある国が日本に艦艇などで近づき、侵攻してくる際の離島の防衛だということです。

念頭にあるのは南西地域などで活動を活発化させる中国の動きで、日米の抑止力と対処力を強化するねらいがあるということです。

訓練の開始式で陸上自衛隊西部方面総監の鳥海誠司陸将は「これまでで最大規模の実動訓練ができることは日本の防衛にとって極めて意義深い」と述べ、沖縄の海兵隊トップのロジャー・ターナー中将は「戦闘を想定した現実的なシナリオで共に訓練を重ねることはインド太平洋地域の平和と安全に対するあらゆる脅威に対し明確かつ信頼できる抑止力を示すものだ」と強調しました。

今回の訓練ではアメリカ海兵隊の作戦、EABO=機動展開前進基地作戦と、自衛隊側の連携向上が図られています。EABOは有事の発生前から小規模な部隊を離島などに分散させて拠点を構え、ミサイルの発射準備などを進めるもので、今回は沖縄県にある陸上自衛隊石垣駐屯地で日米のミサイルシステムを展開させました。

こうした前線の部隊に武器や弾薬、食糧を送り込むのが後方支援で、今回の訓練で特に力を入れています。作戦を継続するために必要不可欠だからです。

防衛省関係者は「南西地域は離島が多く、物資を輸送するのは本当に難しい。訓練では有事を想定し日米の互いの航空機や船で何を運べるのか、どういう手続きが必要なのか確認する」と話しています。

今回の訓練は、8月中旬から9月初めまで陸上自衛隊とアメリカ陸軍などが行った指揮所演習「ヤマサクラ」、9月16日から行われている陸上自衛隊とアメリカ陸軍、オーストラリア陸軍の実動訓練、「オリエント・シールド」と初めて連接させて行っています。

防衛省関係者は「中国軍の練度が上がり、活動が活発化する夏ごろにかけて訓練や演習を集中して行うことで、抑止につなげるねらいがある」と話しています。

新型兵器を相次いで投入

地上発射型の中距離ミサイルシステム「タイフォン」

今回の訓練ではアメリカ軍の新型兵器が相次いで投入されています。

アメリカ軍岩国基地では、新たに開発された地上発射型の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が展開されています。日本に展開されるのは今回が初めてです。

「タイフォン」は巡航ミサイル「トマホーク」を発射でき、射程1600キロのタイプであれば、岩国基地から東シナ海、そして中国の一部に届く能力があります。

「MADIS」と「NMESIS」

また、沖縄県の陸上自衛隊石垣駐屯地には、アメリカ軍の新型地対艦ミサイルシステム「NMESIS」と新型海兵防空統合システム「MADIS」が展開されました。

「NMESIS」は遠隔操作できる車両に発射機があり、射程180キロを超える対艦ミサイルを積むことができます。

「MADIS」は無人機などに対処するためのもので対空ミサイルと機関砲を搭載した車両と目標を探知するレーダーを設置した車両、2台で運用されます。いずれもアメリカ軍基地以外の日本国内での展開は初めてです。

日米指揮官の共同会見では

9月17日にはミサイルシステムが展開された陸上自衛隊石垣駐屯地で日米の共同会見が行われました。

陸上自衛隊西部方面総監の鳥海誠司陸将は「今回の訓練は陸上自衛隊とアメリカ海兵隊の連携を深化させ、島しょ防衛作戦での日米同盟の実効性や信頼性を向上させるうえで重要な意義を有している」と話しました。

そのうえでミサイルシステムの展開については、「これらの装備が訓練に参加することで島しょ部に対する侵攻を洋上でより効果的に阻止できる対処力を高め、抑止力も高めることができると考えている」と意義を強調しました。

また、沖縄のアメリカ海兵隊トップ、ロジャー・ターナー中将は「ミサイルシステムは沿岸防衛能力などを大幅に強化するもので、南西諸島全域における海上防衛能力を備えている。今回の訓練はこれらの戦術を検証し、洗練する重要な機会だ」と述べました。

重視する後方支援

今回の訓練で特徴のひとつとなっている後方支援。

懸念される台湾有事でも離島の多い南西地域にどう物資を運ぶのかが課題だとされています。

今回、沖縄県浦添市にあるアメリカ軍牧港補給地区を後方支援の拠点とし、日米共同の調整所が設けられました。

調整所では前線のニーズを把握し送る物資の種類や輸送先を決めています。

5回目の今回、これまでで最も多い30人が調整所を担当していて、防衛省関係者によりますと訓練で輸送する物資の種類や量が多いためだということです。

調整所があるこの拠点には物資輸送のほか車両整備などを担当するおよそ400人が訓練にあたっています。

9月18日、日米双方の指揮官らが後方支援の拠点を訪れ、訓練を視察しました。

この日は、陸上自衛隊の水陸両用車のエンジンを日米共同で整備・点検する訓練や、有事などの際に招集されて第一線部隊の任務につく即応予備自衛官が食糧や燃料を重機を使って運搬する訓練が行われました。

また、今回の訓練では3Dプリンターを使ってドローンや偵察ボートのプラスチック製の部品などを日米の隊員で作っていて、こうしたことを視察に訪れた指揮官に説明していました。

陸上自衛隊の後方支援訓練の担当者は「日米では装備品や補給品に違いがあるなど、現場レベルでの連携に課題はある。課題を克服できるよう訓練を行って信頼関係を強固なものにする機会にしたい」と話しました。

9月13日からはアメリカ海兵隊の新型無人艇「ALPV」を使った物資輸送の訓練が行われました。

この無人艇は全長19メートルの半潜水型で部隊が離島で長期間活動するために必要な水や食糧のほか、燃料や弾薬なども目立たずに運ぶことができます。

今回は、沖縄県うるま市のアメリカ軍基地、ホワイトビーチを出港し、2日間かけて鹿児島県の徳之島にある漁港に物資を送りました。

同じ13日にはアメリカ軍キャンプ瑞慶覧で航空機から投下して前線に送る補給品のこん包作業が日米共同で行われました。

アメリカ軍の落下傘に自衛隊用のおよそ300食分の食糧が入った箱を装着するため、隊員たちは日本語と英語の両方で意思疎通を図りながらロープの結び方などを確認していました。

アメリカ海兵隊の担当者は「こうした訓練をしていないとあやふやな状態で戦闘に入ってしまう。日本とアメリカではやり方が全然違うので、チームの連携とコミュニケーションが大事だと思う」と話していました。

自衛隊の規模と役割の拡大

今回の訓練のもうひとつの特徴は自衛隊の参加規模と役割の拡大です。

「レゾリュート・ドラゴン」が初めて行われた4年前の2021年、自衛隊からおよそ1400人、アメリカ軍からおよそ2650人が参加しました。

自衛隊員の割合はおよそ35%でした。

5回目のことし、自衛隊からおよそ1万4000人、アメリカ軍からおよそ5000人と自衛隊員の割合はおよそ74%に増えました。

自衛隊からの参加人数は10倍に急増しています。

訓練で使う自衛隊などの施設も大幅に増え、2021年は5か所ほどだったのに対し、ことしは民間の港も含め50か所となっています。

また、自衛隊の能力向上に伴ってその役割も拡大しています。

陸上自衛隊の小型無人偵察機「スキャンイーグル」

海上の目標を攻撃する際などに必要な情報を集める訓練では陸上自衛隊の小型無人偵察機「スキャンイーグル」を飛ばしました。

この機体は比較的長時間の飛行ができ夜間も偵察可能で今回は収集した情報を日米双方の部隊に共有しました。

防衛省関係者によりますと遠く離れた目標の情報収集はこれまでアメリカ軍に頼る傾向が強かったものの、今回は自衛隊が担う範囲が大幅に増えたということです。

別の防衛省関係者によりますと海上の艦艇へのミサイル攻撃を想定した訓練では新たに配備予定の長射程ミサイルの運用も念頭に置かれていたということです。

この関係者は「これまで射程が長いミサイルの運用はアメリカが担ってきたが今後は自衛隊でも可能になり役割が増していく」と話しています。

5回目で初めて行っている訓練も複数あります。

隊員にけが人が出た場合を想定した訓練ではアメリカ海軍と連携して輸血のための血液の補給を行ったほか、自衛隊が契約を結ぶ民間フェリーを使って船内で治療し後方に運びました。

こうした訓練を行う背景について防衛省関係者は「中国の活動が活発化するなかで訓練に臨む本気度が増していて、自衛隊の役割も増え、参加規模も拡大している」と話しています。

別の防衛省関係者は「この10年ほどでアメリカが自国中心の方向に進み、そうしたなかで日本が担う役割、日本に求められる役割が拡大していると感じる」と話しています。

【専門家QA】今回の訓練から見えること

今回の訓練から見えることや安全保障関連法成立後の変化について国際政治や安全保障が専門の大東文化大学の川名晋史教授に聞きました。

Q.日米あわせて過去最多の1万9000人が参加している、この規模をどう見ていますか?
A.日米はいま、陸だけ、海だけ、ではなく、それらを統合し、さらに宇宙や電子戦も含めて考えているので訓練で試す“面”が拡大しているのだと思う。さらに、それらに関わるロジスティクス(輸送や補給)、事務作業もある。長期の戦闘に耐える、いわゆる「継戦能力」を整えるためには、日米で物資をどう融通するのかなど事務レベルの課題も多い。見た目が派手なミサイルなどの訓練だけでなく、裏方の態勢をいかに整えるのかも重要で、こうした訓練を行っているため参加人数が増えているのではないか。

Q.訓練内容で注目した部分はありますか?
A.注目したのは、ミサイル部隊の動きで、日本への接近の阻止を想定した“ミサイル戦”がかなり可視化されてきたと感じる。日米のさまざまなミサイルシステムが投入されていて中国からすると“モグラたたき”に直面するような状況になり、日米としては中国に的を絞らせないことを狙っている。もう1つ注目したのは今回の「レゾリュート・ドラゴン」と同時に日米豪の共同訓練も行われていること。オーストラリア陸軍が日本国内の実動訓練に初めて参加していて、日米だけでなくオーストラリアも含めた連携が具体的に見えてきたことにも注目している。

Q.訓練に参加する日米の割合は日本が7割以上ととても多い、何が読み解けますか?
A.
日本の安全保障の基本的な構図が変化していることのあらわれだと考える。日本はデフェンス、オフェンスはアメリカが担うという「盾と矛」の関係があった。訓練への参加人数の割合に加え、自衛隊が今後、長射程のミサイルを配備することからも日本がぐっと前面に出てアメリカがちょっと後ろに下がる、そういう兆候が見てとれる。日本の能力が追いついてきて訓練で試し始めている状況だと見ている。

Q.こうした変化の背景にトランプ政権の影響はあると考えますか?
A.
非常に大きいと思います。いまアメリカは、世界全体で軍の配置の見直しに取り組み、新しい国防戦略を作成していると言われている。ヨーロッパから一部手を引き、インド太平洋地域では手を引くとまではいかないが最前線に立つことを避け、日本やオーストラリア、フィリピンを前に出すという考え方が今後出てくる可能性があると見ている。

Q.安全保障関連法の成立から10年となりますが、変化は感じていますか?
A.当時、多くの人は集団的自衛権に注目したが私たちがあまり注目しなかったことが顕在化してきていると感じる。日本がアメリカ軍に対して行っていた支援を安全保障関連法によってアメリカ軍以外の「第3国」の軍に対してもできるようになった。こうした連携はオーストラリア、イギリス、フィリピンと着実に制度化されていて、今後はフランスやドイツなどとも進んでいくとみている。ただ、いま何が起きているのか多くの人は置いていかれているような感覚があるのではないかと感じている。いまからでもその意味について立ち止まって考えてみる価値はあると思う。

Q.今後想定される変化で注目すべき部分はありますか?
A.日本を含めた多国間の訓練がさらに増えてくるはずだ。それに作戦領域は陸海空に分断されず横断するようになり、言いかえれば“日本全国どこでも作戦領域に含まれる”ということになる。自衛隊とアメリカ軍の基地などがない地域では安全保障はどこかちょっと遠い話だと考えてきた人たちも少なくないと思うが、今後は民間の空港や港を使った訓練が増えることも予想される。いま、南西地域で起きているような変化が自分の地域でもあるかもしれず、わがこととして問題意識を持って考えることが必要だと思う。

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