北海道知床半島にある羅臼岳で登山中の男性がヒグマに襲われた事故から、9月14日で1か月です。知床では、ヒグマと人の「距離感」が問われる中、カメラを設置して、観光客の問題のある行動を監視するなど、再発防止に向けた取り組みが始まっています。
8月14日、斜里町にある羅臼岳で登山中の男性がヒグマに襲われ亡くなり、地元の自治体や国などで作る連絡会議では、今年度末までに再発防止の報告書をまとめることにしています。
知床では、この事故が起きる前から、観光客がヒグマに過度に近づくなどの問題行動が相次いでいました。
環境省は、こうした場所の1つで羅臼岳の登山口に近いイワウベツ川沿いに、ヒグマなどの野生動物につきまとうことは法律で禁止されていることを多言語で記した看板を新たに設置しました。
さらに、新たにカメラも設置して、観光客の問題行動を監視するとしています。
こうした再発防止に向けた取り組みについて、環境省ウトロ自然保護官事務所の二神紀彦さんは「男性を襲ったヒグマはイワウベツ川でも頻繁に目撃されていた。近づいてくる観光客によって、そのヒグマが人慣れしていた可能性もある。今後の対策を検討する上で重要な取り組みになると思う」と話しています。
山小屋の管理人 “事故の日の朝 登山客に声をかけたが…”
羅臼岳にある山小屋の管理人、四井弘さん(65)は、10年前から、夏の期間、この山小屋で寝泊まりし、多くの登山客の手助けをしてきました。
四井さんは、事故が起きる数日前から登山道でヒグマとの危険な遭遇が相次いでいたことについて「事故の起きた14日の朝、こんなクマがいるから気をつけるようにと登山客に声をかけたが、全員には伝えられなかった」と振り返りました。
そして「この小屋は登山をする前の『最後のとりで』。被害にあった男性に危ないクマがいるから気をつけるように伝えられていれば、状況が変わったかと思うと、悲しいし悔しい」と口にしました。
一方で、近年は人に慣れたクマが出没し、事故が起きてもおかしくない状況だったとした上で「クマの近くに寝転んで写真を撮っている人を見た。クマは人間は怖くないと学習したのではないか。人はクマの生息地に入るということを理解し、謙虚な気持ちを持ってほしい」と語りました。
山小屋には、被害に遭った男性が入山前に名前や住所などを記したノートが残されていたということで、四井さんはそのページを切り取って、事故のあとに訪れた男性の両親に手渡したということです。
四井さんは、亡くなった男性を弔うため、登山口に今も花を供え続けています。
四井さんは「ご両親は自分の子どもが無残な姿になってしまったと感情が抑えられない様子だった。そんな姿をもう見たくないです」と話していました。