関税率15% 日本経済への影響は【各地の動き・専門家の見方】 | NHK

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トランプ大統領が新たに関税率を定める大統領令に署名し、日本については日米交渉で合意した15%に。8月7日に発動するとしています。
ただ、自動車関税がいつ引き下げられるのかについては明らかにされていません。
日本経済への影響について、各地の企業の声や専門家の見方をまとめました。

日本政府がこれまでに公表している日米合意の内容ではアメリカの関税措置の見直しについて、従来の税率が15%未満の品目は税率が一律15%に引き上げられ、従来の税率が15%以上の品目はこれまでの税率が維持されるとしています。

具体例として、身近な食料品を見てみます。

水産物の中でアメリカ向けの輸出額が多いホタテや冷凍のブリはもともと関税がかかっていませんでしたが、ことし4月から10%の関税が課されていました。今回の措置で関税率は5%引き上げられ15%となる見通しです。

また、牛肉は、もともと一部を除いて26.4%の関税が課されていましたが、ことし4月に10%の関税が上乗せされ、36.4%に引き上げられました。今回の措置で関税率は上乗せ前の26.4%に戻るとしていました。

今回署名された大統領令について経済産業省の担当者は「大統領令を踏まえた関税率の詳細が日米の合意内容に沿ったものかどうか、アメリカ政府に確認しているところだ」とコメントしています。

《専門家の見方は》

“15%も非常に高い 影響を注視”

大和総研 久後翔太郎シニアエコノミスト

日米交渉で合意した15%の新たな関税が幅広い品目に課されることについて、大和総研の久後翔太郎シニアエコノミストは「25%の高い関税率は回避できたが、15%も非常に高い関税率で日本経済や企業への影響を注視していく必要がある」と指摘しています。

久後氏は日米交渉の合意後、15%の新たな関税と自動車関税15%を含む一連の関税措置の影響で日本のことしの実質GDP=国内総生産は1.1%押し下げられると試算していました。

しかし、現時点では自動車関税が15%になる時期が不透明なことから「引き下げが遅れれば遅れるほど日本企業や日本経済にとって大きな悪影響が出てくると思う」と指摘しています。

その上で日本企業への具体的な影響については「日本からアメリカへの輸出が減る可能性には注意が必要だ。日本企業にとっては、不確実性の高い状況が今後も続くと考えている。この場合企業は設備投資を抑制することが考えられ、これが経済全体を下押しする形で悪影響が広がる懸念がある」と述べました。

“WTOのルール無視 恒久的に同意は得策でない”

上智大学法学部 川瀬剛志教授

日米交渉で合意した15%の関税が幅広い品目に課されることについて、国際経済法が専門の上智大学法学部の川瀬剛志教授は「WTO=世界貿易機関の根本的なルールをすべて無視して、貿易赤字があるとかないとか、政治的に遠いとか近いとか、そういう理由で関税を差別的に一方的に上げるということはありえない。新たな15%の関税は、少しも低くなく、あくまで8月1日時点での暫定的な合意であって恒久的に日本が同意したと受け止められるのは全く得策ではない」と指摘しています。

その上で、今後日本が取るべき対応について「日本はアメリカとは二国間で対応しながら、例えば、EU=ヨーロッパ連合やカナダ、ASEAN=東南アジア諸国連合などを大事にしながら、現在の国際貿易体制の維持、立て直しに力を入れなくてはいけない。場合によっては、中国とも貿易秩序を維持するために協力してもいい」としています。

《担当記者 解説》

(経済部 河崎眞子記者)
Q 日本への関税率は15%になりますが、日本経済への影響は少しは緩和されるのでしょうか。
関税率が25%といった高さにまで及ぶおそれがあったことからすると、日本経済への影響は抑えられると言えます。だからこそ、日本の政府や企業からは安どの声も聞こえてきます。ただ、15%という数字は決して低いわけではないのも事実です。

大和総研の久後シニアエコノミストは、日本のことしのGDP=国内総生産が、1.1%押し下げられると試算。アメリカ向けの輸出が減ったり、景気の不確実さが高まって企業が設備投資を控えたりすることが懸念されるとしています。

Q 一方、自動車関税の引き下げ時期は明らかになっていないが、これはどうなりそうか。
政府関係者からは「自動車関税の見直しに合意したEUや韓国と同じタイミングで大統領令が署名される可能性もあり、まだ時間がかかるかもしれない」という見方も出ています。日本の基幹産業である自動車産業は、すそ野が非常に広く、4月以降の追加関税で影響も出始めているだけに、1日でも早い合意内容の実施を求めていくことが必要です。

Q ベッセント財務長官は「トランプ大統領が不満なら関税率は逆戻りする」とも述べていた。日本はどうすべき?
はい。今回の日米の合意では、合意文書が作成されていないために、解釈に違いが出るおそれがあるとも言われています。日本としては、自動車関税の点も含めて、日米双方で合意内容を着実に実行していく必要性を訴えていくことが欠かせません。

また、今回トランプ政権は、世界が進めてきた「自由貿易体制」の根本を、ないがしろにするような形で、関税を交渉のカードに世界を揺さぶってきました。アメリカと中国の交渉をはじめ、その行方がどう決着するのかもまだ見通せないだけに、世界経済への影響についても、しっかりと見ていく必要があります。

《国内の反応・製造業の現場では》

JA全中会長「農畜産物の輸出 影響を精査」

関税措置をめぐる日米交渉の合意を受けて、JA全中=全国農業協同組合中央会の山野徹会長は1日の記者会見で「厳しい交渉が続く中、農業を犠牲にするような交渉はしないとの方針を堅持し、日本側の農産品の関税引き下げを回避したことについて、交渉にあたった人たちの努力に敬意を表したい」と述べました。

そのうえで「15%の関税が日本の農畜産物のアメリカへの輸出に与える影響を精査するとともに、輸出に取り組む産地や事業者への万全な措置を引き続き求めていきたい」と述べ、生産者に対する必要な対策を国に求めていく考えを示しました。

名古屋 ねじ製造会社 “自動車への関税決まらず不安”

トランプ大統領は、日本に15%の関税を課すとする大統領令に署名しましたが、自動車への25%の追加関税については、15%に引き下げるかどうか明らかにしておらず、名古屋市で自動車部品向けにねじを製造する会社からは、不安の声が聞かれました。

名古屋市熱田区にある「中部製作所」はハイブリッド車などの電装部品に使われる特殊なねじを年間1億本余り製造しています。

アメリカのトランプ大統領は、日本に15%の関税を課すとする大統領令に署名しましたが、自動車への25%の追加関税については従来の税率とあわせて15%に引き下げるかどうかは明らかにしていません。

これについて、大野正博社長は「15%になると思っていたので驚いている。はっきりと決まっていない状況はやはり不安だ」と話していました。

一方で、関税の率が15%になったとしても自動車メーカーがアメリカでの現地生産を増やした場合、自社の受注が減るおそれがあると心配しています。

大野社長は「今のところ、従来と変わらない受注をもらっていてありがたい状況だが、15%になっても不安はなくなることはない。従業員を確保し、品質を守っていくことで生き残れる会社にしたい」と話していました。

福岡 部品メーカー “1秒でも早く引き下げを”

関税措置の影響を受けている福岡県の自動車部品メーカーからは、直ちに関税を引き下げるよう求める声が上がっています。

福岡県豊前市に工場がある自動車部品メーカーの「松本工業」は、座席のフレームや、ヘッドレストなどの部品を生産しています。

部品の8割は、県内にある日産自動車の子会社「日産自動車九州」向けですが、この会社では25%の追加関税を受けてことし5月からアメリカ向けの自動車を減産する生産調整を行っています。

さらに日産の販売不振の影響もあることから、この部品メーカーでは一部の部品の売り上げが去年と比べておよそ25%減少しています。

関税措置の影響で日本の自動車メーカーを取り巻く経営環境が厳しさを増せば、下請けの部品メーカーにも深刻な影響が及ぶと危機感を強めています。

舘下繁仁社長は「私たち部品メーカーは自動車の生産台数を左右することはできない。1%のコストを削るのに血も汗も流しながら必死で努力している。政府間で約束したことなので、1秒でも早く少なくとも15%に引き下げるよう強く主張すべきだ」と話しています。

一方、会社としてもデジタル技術を活用した生産管理を導入するなどコスト削減の取り組みを強化しています。

舘下社長は「輸出の数量が減れば、自動車メーカーの売り上げが減り、それに比例して私たちの売り上げも減る。コストの要求に応え、より新しい付加価値を提供していかないと勝ち抜いていけない」と話しています。

宮城 部品メーカー “早期の引き下げを”

自動車への関税が従来の税率とあわせて15%にいつ引き下げられるかが明らかになっていない中、宮城県に本社がある自動車部品メーカーからは早期の引き下げを求める声が聞かれました。

宮城県白石市に本社がある「トーキン」は、電子部品の製造や販売などを行っていて、自動車用の部品は海外に輸出する自動車にも使われています。

片倉文博社長は、関税措置をめぐる日米交渉の合意について、「関税がどうなるかわからなかったが、数字ができたので、それをベースに経営を考えていくことができる」と評価しています。

一方、自動車などへの25%の追加関税を従来の税率とあわせて15%に引き下げる時期が明らかになっていないことについて「売り上げのおよそ20%は自動車用の部品になるので、そこの部分で関税が続いて日本車のアメリカでの販売が減少していくことになると、影響は軽微ではない」と懸念しています。

その上で25%の追加関税が1か月程度続く場合は大きな影響はないとしながらも、それ以上続く場合は経営に影響が出かねないとして関税の早期の引き下げを求めています。

北海道 部品メーカー “自動車の需要 減少するのでは”

アメリカの自動車メーカー向けに部品を供給する北海道千歳市のメーカーは、31日の大統領令で自動車への関税がいつ引き下げられるかが明らかにされていないことに困惑するとともに、関税措置により自動車の需要が減少するのではないかと懸念しています。

この会社はアメリカの自動車メーカー、GM=ゼネラル・モーターズの電気自動車に使われる部品を製造していて、その売り上げが会社全体のおよそ8割を占めています。

この部品は韓国を経由してアメリカに輸出されていますが、31日の大統領令では自動車部品への追加関税について明らかにされておらず、会社では詳細を把握できていないということです。

部品メーカー「FJコンポジット」の津島栄樹社長は「新たな関税措置をきょうから発動するかと思っていたが、発動が延びたことで混とんとしている状況だ。関税措置により世界経済に異変が起こると誰も車を買えなくなるのが最も怖い状況だと思う」と話していました。

この会社では自動車向けの部品のほかにも、通信衛星などに使われる電子部品をアメリカに輸出しています。

これまで関税率は10%でしたが、この電子部品はほとんどが銅でできているため、銅の半製品に対して日本時間の1日午後1時すぎに発動された50%の関税が課されるおそれもあるということです。

このため会社では状況を注視しながら、輸出方法の見直しを進めています。

山形 機械メーカー “上乗せの関税分 転嫁できるのか“”

工作機械を輸出する山形市の機械メーカーからは、上乗せされた関税分を価格転嫁できるのか懸念する声が聞かれました。

山形市の機械メーカー「ミクロン精密」は、自動車や航空機などの部品を加工する「研削盤」と呼ばれる工作機械を、現地の子会社を通じてアメリカに輸出しています。

「研削盤」の関税はこれまで4.4%でしたがことし4月に課された一律関税で10%に、そして、日米合意に基づき、15%の新たな関税が課される見込みになりました。

会社では顧客側に関税の上乗せ分を価格転嫁したいと求めていますが、先月までに出荷した製品は、一部を自社で負担しなければならないケースも出ているということです。さらに、契約が進んでいた大口の注文も2か月以上遅れているということです。

榊原憲二社長は「関税で様子見しているのではと心配している。アメリカ向けは全体の売り上げのおよそ20%を占めるが、来期の販売計画は不透明だ」と話していました。

また、アメリカで現地企業や日系企業の自動車部品の製造が増えた場合、新たな受注につながる可能性があるとする一方で「トランプ大統領の任期終了後にこの関税措置が続くかがわからず、今のところアメリカの顧客側の設備投資の動きは全くない状況だ」と話しています。

愛知 化学工業品メーカー “価格転嫁 検討せざるえない”

トランプ大統領が日本に15%の関税を課すとする大統領令に署名したことについて、愛知県の化学工業品メーカーからは、コストの増加分を価格転嫁するなどの対応を検討せざるを得ないという声が聞かれました。

愛知県あま市に本社があり、工業用の潤滑剤などを製造する化学工業品メーカーの「中京油脂」はアメリカにも工場があり、日本などから輸出した原料を使って現地で製造を行っています。

このうちアメリカの製紙会社向けの潤滑剤の原料は日本から輸出していて、ことし4月以降、トランプ政権の関税措置で10%の関税が課されているということです。

会社では4月以降、関税によってコストが増えた分については取引先と交渉して価格に転嫁していますが、今回、関税率が15%に上がることで新たなコストをどう埋め合わせるか対応を迫られています。

中京油脂の伊藤英樹社長は「何はともあれ関税率が決まったので企業としては動きやすい環境にはなった。物流コストを下げるなど自社で負担は圧縮するが、自助努力には限界がある。そこを超えたものについては価格に転嫁しないといけないと考えている」と話していました。

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