参議院選挙、障害がある人など誰もが投票しやすい環境は整っているのでしょうか?
NHKは視覚障害者と知的障害者の現状について取材したところ
▽選挙公報を音声で読み上げる、
▽わかりやすく選挙を説明する辞典、
こうした取り組みがあることがわかってきました。
ただ、順番通りに読み上げられない、情報が「わかりにくい」などの課題もあります。
(機動展開プロジェクト 記者 直井良介/大阪放送局 記者 的場恵理子)
選挙管理委HPで「選挙公報の音声読み上げ版」広がる
候補者の選挙公報を読み上げた音声を選挙管理委員会のホームページで公開する取り組みが広がっています。
NHKが今回の参議院選挙について、すべての都道府県を調べたところ、選挙区では46の都道府県で音声の選挙公報が掲載されています。
視覚に障害があったり文字を読むことに困難があったりする人が候補者の政策を知る手段はこれまでは、点字に訳したり、音声で読み上げてCDなどに録音したりしたものを自治体が希望者に配付するなどしてきました。
ただ、人員などの関係で作成に時間がかかるため希望者が手にするまでに時間を要し、中には投票日の直前に届くケースもあったということです。
こうした中、選挙管理委員会のホームページに通常の選挙公報のほか、7年前からは音声で読み上げたものを掲載するようになりました。
「音声読み上げ版」の選挙公報は、パソコンやスマートフォンにある音声読み上げ機能を利用すれば聴くことができます。
さいたま市に住む芳賀優子さん(62)は「読み上げ版 選挙公報」を聞いた上で、今回の参議院選挙の投票に行こうと考えています。
芳賀さんは目の病気で生まれたときから視力がとても弱く、パソコンのモニターに映る文字を読み上げソフトを使って理解しています。
20歳から一度も欠かさず投票に行っているという芳賀さんは、これまで、自治体に依頼してCDなどの選挙公報を利用してきました。
しかし、投票日の直前に送られてくることがあったため、候補者の数が多い選挙になると、各候補の政策を十分に知ることができずに投票せざるをえなかったことがあったということです。
今回の参議院選挙で埼玉県は公示日の翌日に音声読み上げを掲載していて、芳賀さんもさっそく利用したといいます。
芳賀優子さん
「15人の候補者の選挙公報を短期間で何度も聞いて、ヘトヘトになりながら投票に行っていたころに比べれば、早く情報を入手できるのは画期的なことでありがたい」
一方で不満もあります。
まず、この選挙公報を音声で読み上げたものは任意のため、すべての候補者のものが掲載されているわけではありません。
「読み上げ版選挙公報」の中には順番通りに読まれていなかったり、グラフやイラストが「イメージ」とだけ読まれてしまったりすることがあるからです。
今回の参議院選挙でどれぐらい理解できたかと芳賀さんに尋ねると「座布団10枚中9枚」と表現し、その理由を次のように説明します。
芳賀優子さん
「わからなかった画像1枚に、大事な情報が載っていたらどうしようと不安になります。座布団たった1枚だと思うかもしれないけれど、目の見える人たちが座布団10枚の情報を取っている中で、私たち視覚障害者が9枚でいいのでしょうか。本当に同じ有権者なのかなと疑問に思う。正しく読み上げられるように、対応してほしい」
候補者や政党 “完成した読み上げ版チェックを”
なぜこうしたことが起きるのか、都内のソフトウエア開発企業の取締役で「読み上げ版選挙公報」の解析を行っている野田純生さんに聞きました。
読み上げの編集はソフトを使って行われます。
野田さんによると、編集の段階で読み上げる順番を指定できるのにしておらず、画像やイラストもその内容を説明できる文章を挿入すれば読み上げられるがしていないため、こうした“不十分な”読み上げになるということです。
野田さんが、今回の参議院選挙のすべての候補者と政党の読み上げ版を解析したところ、編集が不十分だと見られるものは9割以上に上っているということです。
改善するために野田さんは“正しい作り方”を周知し、候補者や政党も完成したものをチェックすべきだと指摘します。
「読み上げ版選挙公報」解析行う 野田純生さん
「総務省や選挙管理委員会がきちんと伝わる読み上げとなる作り方を周知徹底することが大事だ。候補者や政党も完成したものが正しく読み上げられるかチェックすることが求められる」
選挙公報 “人の読み上げ版”公開の自治体も
東京都や静岡県、鹿児島県などでは選挙公報を人に直接読んでもらって録音したものをホームページに公開しています。
東京都選挙管理委員会選挙課の下河辺悠美課長は、その理由について次のように話します。
東京都選管理委員会選挙課 下河辺悠美課長
「どうすれば正しい順番で読み上げられる選挙公報をインターネット上で提供できるか検討した結果だ。誰もが等しく情報を得られるようにこれからも取り組んでいきたい」
障害者に役立て!“選挙の辞典”
障害者に選挙をわかりやすく解説する動きも出ています。
「せんきょのことば選挙学習小辞典」
ことし3月、大阪・東大阪市にある障害者施設が中心となって完成させました。およそ240ページ、15の章からなる辞典では、選挙や投票に関わる170のことばがイラストやひらがなを使ってわかりやすく説明されています。
例えば、「公約」や「普通選挙」は次のように説明されています。
「公約」
“たくさんのひとにやくそくすることをこうやくといいます”
「普通選挙」
“むかしおかねもちのおとこのひとだけがせんきょでとうひょうできました。おんなのひとやしょうがいがあるひとはとうひょうできませんでした。おおぜいのひとたちが『こんなせんきょはだめだ』とはんたいしました。いまおんなのひともしょうがいがあるひともとうひょうすることができます。このようにみんながおなじようにせんきょにいってとうひょうできることをふつうせんきょといいます”
この辞典は、デジタル書籍となっていて、施設を運営する東大阪市の社会福祉法人「創思苑」のホームページで、すべてのページを無料で見ることができます。
勉強会で学び「胸を張って投票できるようになった」
辞典を中心になって制作した東大阪市にある障害者施設です。利用者の多くは重い知的障害があり、選挙の仕組みや投票方法などがよく分からず、投票に行ったことがないという人もいました。
こうした状況を改善できないかと、この施設はわかりやすいことばを使ったコミュニケーションを研究している専門家とともに、選挙を基本から学ぶ勉強会を2年前にスタートしました。
開催は月に1回ほどのペースで、施設の利用者は選挙や投票に関わることばや仕組みを座学だけでなく、模擬投票なども通じて学んでいきました。
学んだ人の中には「これまで選挙のことがよく分からず、投票所に行くのも不安だったが、選挙について学ぶことで胸を張って投票ができるようになった」と話す人も現れています。
この勉強会の成果に加えて、障害がある当事者の意見も聞きながら、とりまとめたのがこの辞典です。
発行したのはことし3月で、施設では、ほかの施設にも活用してもらおうと、ことしから辞典を使った選挙の勉強会の輪を広げています。
7月8日に開かれた勉強会には、オンラインを含めて11の施設が参加し、国内の政党の種類などを学びました。
辞典や勉強会による選挙への効果を期待しています。
施設を運営 社会福祉法人創思苑 林淑美理事長
「みんな熱心に勉強会に取り組んでいます。その姿をみると、選挙について知りたかったが、そういう機会がこれまでなかなかなかったことがわかった。みんなで学んだ成果をより多くの人に活用してもらいたい。そして、選挙に行くきっかけにしてもらいたい」
障害者の選挙支援に詳しい専門家は。
京都産業大学 堀川諭教授
「知的障害がある人に向けに選挙や投票の基本を網羅的にまとめたものは珍しく、今回の辞典は多くの人に役立ててもらえるのではないか」
一方で、「知的障害がある人の投票への環境を整えるという意味では、まだ課題がある」としています。
それは、政党や候補者の「主張」や「公約」に関する情報の「わかりにくさ」です。
投票先を判断するうえで欠かせない情報ですが、障害がある人にとっては、情報量が多すぎて、わかりにくいという意見があります。
今回、取材した施設の担当者からは、そうした情報を「自分の意見や主観」が入らないようにわかりやすくかみ砕くいて説明するのは難しいという声もありました。
こうした課題を解決していくためには堀川教授は、候補者や政党の努力も必要だと指摘します。
障害者の選挙支援に詳しい 京都産業大学 堀川諭教授
「今後は政党や候補者側もどのように情報を伝えれば有権者の判断に役立つものになるのか、内容や発信のしかたも考え、よりわかりやすく伝える工夫が必要だ」
投票所で受けられる支援などの情報はこちらの特集サイトから
NHKではさまざまな事情で投票が困難な人を支援する「みんなの選挙」キャンペーンを進めています
【情報提供】ニュースポスト あなたの声で、動き出す
今回の記事はNHKのニュースポストに寄せられた芳賀さんのご意見から取材をはじめました。
障害など、様々な事情で『投票が難しい』という訴え、乗り越えようとしている取り組みなど、皆さんからの情報をお待ちしています。