
複数の設計コンサル会社 公取委が聴き取り 実態解明へ
関東地方のマンションの大規模修繕工事をめぐり、工事会社およそ30社が受注調整を繰り返していた疑いがあるとして公正取引委員会が立ち入り検査を行った問題で、工事会社の選定に関わる複数の設計コンサルタント会社からも聴き取りをしたことが関係者への取材で分かりました。公正取引委員会は実態の解明を進めています。
公正取引委員会は、関東地方の複数のマンションの老朽化などに伴う大規模な修繕工事をめぐり、請け負う会社などを事前の話し合いで決める受注調整を繰り返し独占禁止法に違反した疑いがあるとしてことし3月から4月にかけて、都内などの工事会社およそ30社に立ち入り検査をして調査しています。
この問題で、公正取引委員会がこれまでに工事会社の選定に関わる複数の設計コンサルタント会社からも聴き取りなどを行っていることが関係者への取材で分かりました。
大規模修繕工事は、マンションの所有者などで作る管理組合側が発注しますが、組合側に専門的な知識が乏しいため、業者を選ぶサポートなどを設計コンサルタント会社や管理会社に委託する「設計監理方式」を採用することが多いということで、公正取引委員会はこうした方式のもとで数十年前から不正な受注調整が繰り返されていたとみています。
人件費の上昇や資材価格の高騰などを背景に住民たちが積み立てた修繕費用が足りなくなるケースも相次ぐ中、公正取引委員会はマンションの住民の負担がさらに増した可能性があるとみて実態の解明を進めています。
不正な受注調整 繰り返し行われてきたか
「設計監理方式」では、マンションの管理組合が工事を計画すると、建物の診断や具体的な設計などは設計コンサルタント会社や管理会社が担い、修繕工事そのものは選定された工事会社が請け負います。
業者などによりますと、設計コンサルタント会社はマンションの管理会社からの紹介などで管理組合と契約するケースが多いということです。そして、通常は、業界紙などを通じて工事を受注したい会社を募り、各社の料金の見積もりを出させ、もっともすぐれた工事会社を管理組合に推薦するということです。
ところが、関係者によりますと、今回、不正な受注調整が疑われている関東地方の複数のマンションの工事では、工事を請け負う会社は設計コンサルタントや工事会社らの間で事前に決まっていて、その会社がもっともよい条件の提案になるように各社が協力していたとみられるということです。

受注調整に関わった疑いがある設計コンサルタント会社に勤めていた元社員がNHKの取材に応じ、具体的な手法などを明らかにしました。元社員によりますと、少なくとも数年前、マンションの管理組合から大規模修繕工事を受注するため十数社のグループが話し合い、事前に決めた工事を請け負う会社を「チャンピオン」と称して、不正な受注調整が繰り返し行われていたということです。
「チャンピオン」の会社は、あらかじめ高い利益率で工事料金を設定したうえで、工事会社の選定に関わる設計コンサルタント会社などに支払うマージン分の5%から15%ほどを上乗せして見積もりを作成していたということです。一方、設計コンサルタント会社は、各社の見積もりを管理組合に示したうえ、見積もり合わせや入札で最も安い価格などを提示した「チャンピオン」の会社が選ばれたように装っていたといいます。
しかし、実態はほかの会社の見積もりは「チャンピオン」の会社が作成し、他社の金額がより高くなるように設定していたということです。
そして、上乗せされた料金の一部は、設計コンサルタント会社や管理会社に渡っていたということです。
元社員は「社内では『この工事のチャンピオンはどこだっけ』という会話が飛び交っていました。管理組合にきちんと競争入札が行われた体の書類を出したり、聞かれたことに対して平気でうそを返したりというのが当たり前になっていて倫理観がどんどん崩れていきました」と話しました。そのうえでこうした手法が広がったことについて、「現実的に背景にあるのは管理組合の無関心だと思います。コンサル会社などに好き勝手にやらせてしまっていました。マンションの総会という意思決定のときに金額はわかりやすいので『一番安い会社に決めました』と言うとすんなり決まるんですよね。“談合”しようとするプロの人たちが長年培ったノウハウでだまそうとしてくるわけで素人にはまず見抜けないと思います」と話していました。
見積もり依頼したマンション管理組合「ぞっとした」

公正取引委員会の立ち入り検査を受けた工事会社に見積もりを依頼したマンションの管理組合の理事長は今回の問題について「ぞっとした」と話しています。首都圏にあるマンションは、建築からおよそ40年が経過し、浸水や亀裂、塗装が剥がれるなど建物全体の老朽化が進み、ことし秋以降、大規模修繕工事を予定しています。
このマンションの管理組合は、前回18年前の修繕工事の実績をもとに資材などの値上がりを考慮して7000万円前後の費用を見込んでいましたが、当初、工事会社から示された見積もりは9075万円にのぼりました。
管理組合の理事長は「前回より高い予想はしていましたが、金額を聞いて思わずほかの理事と顔を見合わせてしまいました。私たちには知識がないのでどのような金額が出てくるか全然わからなかった」と話しています。工事会社はマンションの管理会社から紹介された会社でしたが、想定よりも高い値段を示されたため組合が複数の会社から見積もりを取ったところ、最終的に、当初の金額から2000万円近く安いおよそ7200万円で今月、契約したということです。
管理組合の理事長は「びっくりしました。なんでこんなに金額が違うのか、100万円とかそういうレベルの下がり方ではなかった。寸前のところで回避できたのでよかったですが、公正取引委員会の立ち入り検査がなかったら同じようなことがずっと続いていたのかと思うとぞっとします」と話しています。
背景には大規模修繕工事の需要増

国土交通省によりますと、全国の分譲マンションの戸数は、1960年代から2023年まで右肩上がりに増え続けていて、同様にマンションの建物の数も増えているとみられます。
大規模修繕工事の需要も今後、ますます増えると見込まれています。国土交通省の2021年度の調査によりますと、大規模な修繕工事はおよそ7割で12年から15年の周期で行われています。
工事の費用は、1回目の修繕については4000万円から6000万円が最も多く、1戸当たりでは、100万円から125万円が最も多かったということです。
修繕工事にかかる建築資材の価格や人件費などが上がっていて、国土交通省によりますと、2024年度、修繕工事にかかった費用はその14年前と比べて3割近く上昇しているということです。
住民が毎月支払う修繕積立金の平均額は、2023年の時点で1万3054円と2018年と比べて16%増加しているということです。
工事会社の各社「公正取引委員会の調査に全面的に協力していく」
公正取引委員会の調査を受けていることについて、工事会社の各社は「事態を真摯に受け止め、調査に対して全面的に協力していく」などとするコメントをそれぞれ出しています。また、設計コンサルタント会社の1社は公正取引委員会から話を聴かれていることについて、「本件については回答を差し控える」とコメントしています。
問題に詳しいコンサルタント「複数の工事会社から見積もりを」

大規模修繕工事をめぐり公正取引委員会が立ち入り検査を行ったあと、都内にある修繕工事の支援サービスを行う会社には、全国のマンションの管理組合から不安の声が多く寄せられているといいます。
この会社によりますとことし4月の相談件数は、過去の平均的な数と比べておよそ2倍に急増したということです。この中で、契約中の金額が適正なのか不安だとか、今後、設計コンサルタント会社や工事会社をどのように選定すればいいのかという声が寄せられているということです。
不正な受注調整などで割高となる支払いを防ぐためにはマンションの住民側はどのような対策を取ればよいのか。
こうした問題に詳しいスマート修繕のマンションコンサルタント、別所毅謙さんは「複数の工事会社から見積もりを取ることが非常に重要になってきます。見積もりがおかしいと思ったら、勇気を持って立ち止まる、もしくはやり直しをする。1人1人が自分の大切な財産のことだと思って関わっていくことが大切です」と話しています。
そのうえで工事会社を募る際の具体的な方法の一つとして「設計事務所や管理会社は工事会社の募集のため、『要項書』と呼ばれる書式を作るが、これには会社ごとに特徴がありマンションの管理組合の名前で募集したとしても業界の人が見ればどこの会社が入っているかわかってしまう。そのグループの傘下ではない工事会社が参加を諦める判断をしてしまうことがあるので書式を変えるなどして管理組合でもう一度作り直すことも大切だ」と話しています。
国土交通省が紹介する住民や管理組合などからの相談を受け付ける窓口では、建築士などがアドバイスや見積書のチェックを行っています。電話番号は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター03-3556-5147、公益財団法人マンション管理センター03-3222-1519です。