航空機バードストライク “最も危険な鳥のひとつ”国内で急増 | NHK

航空機バードストライク-“最も危険な鳥のひとつ”国内で急増-|-nhk

2024年12月に韓国の空港で旅客機が胴体着陸して炎上し、179人が死亡した事故では、バードストライクが起きていましたが、このときと同じ種類の鳥が日本国内で急増し、国土交通省が航空機の安全上最も危険な鳥のひとつだとして、全国の空港などに注意を呼びかけたことがわかりました。

2024年12月、韓国南西部のムアン(務安)空港で、チェジュ航空の旅客機が胴体着陸して炎上し、乗客乗員179人が死亡した事故では、機体の2つのエンジンから鳥の羽根と血が見つかり、バードストライクが起きていたことがわかっています。

DNA鑑定の結果、衝突した鳥は、ロシアで繁殖し冬に朝鮮半島や中国、日本に南下する「トモエガモ」で、日本の環境省が毎年1月に全国で行う2週間の調査では、2020年度には2万羽余りだったのが、2024年度は14万羽余り確認されていて、5年間で6倍以上に急増しています。

こうしたことを受けて、バードストライクの対策を話し合う国の検討委員会が、ことし3月、トモエガモを注意が必要な「問題鳥種」に指定したことが、国土交通省への取材でわかりました。

そのうえで、国土交通省が、航空機の安全上最も危険な鳥のひとつだとして、全国107の空港とヘリポートに対し注意を呼びかける通知を出しました。

通知では「トモエガモ」は非常に大きな密集した群れを形成するため、航空機に一度に複数が衝突するおそれがあるうえ、カモの中では体重が重く、機体が損傷する確率が極めて高いとしています。

そして、▽島根県の出雲空港のすぐ隣にある宍道湖、▽千葉県の成田空港から近い印旛沼、▽佐賀県の佐賀空港に近い諫早湾には、近年、大群が訪れていて、これらの空港では特に注意する必要があるとしています。

対策については、大群の場合は黒い雲のようで比較的見つけやすいため、管制塔や操縦席から群れを探すなどと記載しています。

バードストライクやトモエガモについて、国土交通省の担当者などに話を聞きました。

Q. そもそもバードストライクとはどういう現象のことですか?

A. 航空機の胴体やエンジンに鳥が衝突することをいいます。
高度が低く、比較的スピードが遅い離陸と着陸の時によく起こるとされています。
衝突すると機体が傷ついて運航に影響が出ることがあるほか、最悪の場合、墜落事故につながる可能性があります。

Q. 墜落事故につながるのはどういうケースですか?

A. 最も危険なのはエンジンが関係するときです。
鳥がエンジンに吸い込まれるとエンジンの出力が低下し、最悪の場合は停止してしまいます。

Q. バードストライクはどれくらい発生しているのですか?

A. 国土交通省は2011年から統計を公表しています。

2011年は1599件、2012年は1710件、2013年は1903件、
2014年は1967件、2015年は1769件、2016年は1626件、
2017年は1555件、2018年は1436件、2019年は1575件、
2020年は970件、2021年は1074件、2022年は1421件、
2023年は1463件、2024年は1647件でした。

去年、2024年は過去5番目に多い発生件数でした。

Q. 大きな事故につながったケースはありますか?

A. 国内では墜落事故につながったケースはありません。
ただ、海外では大きな事故が起きています。

よく知られているのは「ハドソン川の奇跡」と呼ばれるアメリカ ニューヨークで起きた事故です。
2009年1月、当時、運航していたUSエアウェイズの旅客機がニューヨークのマンハッタン近郊の空港から離陸した直後、カナダガンという鳥の群れと衝突し、左右のエンジンが停止しました。
その後、機体はハドソン川に不時着し、乗客乗員155人全員が救助されました。

Q. 今回の「問題鳥種」への指定とは、どういう取り組みなのですか?

A. 「ハドソン川の奇跡」を受けて、バードストライクの対策への機運が日本国内でも高まりました。
このとき、各地の空港から「対策をしたいが、どういう鳥が危ないのかわからない、鳥の生態もよくわからない」といった意見が寄せられ、2013年から始まりました。

バードストライクの対策を専門家が話し合う国の検討委員会は毎年1回開かれていて、ここで「問題鳥種」が指定されます。
バードストライクの発生件数のほか、飛来数や生態などから専門家が判断して指定します。

指定すると国土交通省が全国の空港などに対しその鳥の生態やリスク評価、対策などを文書で通知します。
通知を受けた空港などは必要な対策をとることになっています。

Q. どんな鳥が「問題鳥種」に指定されているのですか?

A. トモエガモを含め、トビやコアジサシなど25種類が指定されています。

トビは全長60センチほど、羽を広げたときの長さは150センチから160センチにもなる大きな鳥で、衝突すると強い衝撃があるため指定されました。

コアジサシは12年前の2013年、関西空港や中部空港の誘導路周辺に巣を作り、バードストライクが急増しました。
絶滅危惧種で巣の撤去が難しいことなどから指定されました。

Q. トモエガモはどんな鳥ですか?

A. ロシア極東で繁殖して、毎年11月ごろになると朝鮮半島や中国、日本に南下し、3月ごろに再びロシアへ戻る渡り鳥です。

全長40センチほど、翼を広げると70センチほどの大きさです。
体重はおよそ400グラムと、カモのなかでは重いほうです。

ほかのカモと比べて密集した群れをつくり、数十羽で行動することが多いですが、数万から十数万羽の大群になることもあります。

環境省が絶滅危惧種に指定しています。

Q. 日本国内にはどれくらい飛来しているのですか?

A. 環境省は毎年1月、全国およそ8700地点の湖や沼で2週間にわたって渡り鳥の個体数を調べています。
ボランティアの調査員が同じ個体を重複して数えないよう調査しています。
その結果、各地で確認されたトモエガモは、
2011年度は3838羽、2012年度は3181羽、2013年度は7624羽、
2014年度は7458羽、2015年度は1946羽、2016年度は2181羽、
2017年度は1万3025羽、2018年度は1万2502羽、2019年度は3292羽、
2020年度は2万2006羽、2021年度は2万2124羽、2022年度は4万7919羽、
2023年度は11万5709羽、2024年度は14万7313羽と、
急増しています。

また、NPO法人「バードリサーチ」の全国調査では、2023年10月から2024年3月にかけて38万7836羽が確認されています。
このときの調査では、佐賀空港に近い諫早湾で14万5720羽、成田空港に近い印旛沼で13万8670羽、出雲空港のすぐ隣にある宍道湖で5万8000羽が確認されています。

Q. なぜ、トモエガモは急増しているのですか?

A. バードストライクの対策を話し合う検討委員会の委員長で東京大学の樋口広芳名誉教授は「トモエガモの越冬の中心地の中国やロシアで都市開発が進み、住みかがなくなった一部が飛来しているのではないか。また、温暖化の影響でシベリアの氷が早く溶けて繁殖時期が長くなったことや、冬の死亡率が下がったことも影響していると考えられる」と話しています。

Q. 具体的な影響は出ているのですか?

A. 「要注意」というのがいまの段階です。

なかでも国土交通省が注視しているのが出雲空港です。
これまで滑走路の周辺で数万羽の群れがうねりながら飛び回る様子が目撃されています。
えさのどんぐりを食べるために早朝と夕方に数キロ離れた山に向かう習性があり、この際に滑走路を横切ったり周辺を飛び回ったりしています。
2024年1月には、羽田空港を出発して出雲空港に着陸しようとしていた機体にトモエガモ3羽が衝突しました。
機体を確認したところ、右の翼などに損傷が見つかり、折り返しの便は欠航しました。

Q. 出雲空港ではどんな対策を取っているのですか?

A. 花火を打ち上げたり銃の空砲を鳴らしたりする従来の対策はトモエガモには効果がありませんでした。

出雲空港管理事務所でバードストライク対策にあたっている真弓浩史管理係長は「びっくりする鳥もいましたが、鳥の数が多すぎてほとんど効果はありませんでした」と振り返ります。

このため昨シーズンは鳥の状況を確認するパトロールを空港内だけでなく宍道湖周辺にも広げました。
もともと空港に設置されていたカメラを宍道湖に向け管理事務所の職員が監視することも始めました。

これらに加えてさらなる対策をとろうと、空港ではいま、急ピッチで準備を進めています。
進めているのはトモエガモの動きをより早く把握し、関係者に情報共有する体制の構築です。
宍道湖周辺に向けるカメラを新たに設置し、管理事務所だけでなく管制塔や各航空会社でも同時に見ることができる仕組みの導入を検討しています。
さらに、2025年度、暗視スコープを購入しました。
夜間でも素早く動きを把握するためで、管理事務所の屋上から監視し群れで飛んでいるのを発見した場合は、管制官を通じてパイロットに伝える予定です。

Q. 成田空港や佐賀空港はどのような状況なのですか?

A. 成田空港や佐賀空港は飛来が確認されている印旛沼や諌早湾まで距離があるため、トモエガモの行動範囲と航空機の飛行ルートは重なっていません。

しかし、トモエガモの生態はわかっていないことも多く、今後、行動範囲と飛行ルートが重なる可能性もあるとして国土交通省が注視しています。

Q. 今後、どのような対策が必要なのでしょうか?

A. 検討委員会の委員長を務める東京大学の樋口広芳名誉教授は「トモエガモは間違いなく最も危険な鳥種だ。一度航空機に当たると次々に衝突する危険性が高く、大事故につながる可能性がある。えさ場の状況や気温の僅かな変化で生息域が変わるので、注意深く観察を続ける必要がある。一番の問題はたかが鳥だという認識を持ってしまいがちなことで、早期に生態調査を行い、有効的な対策を打ちたい」と話しています。

Q. 飛来する前のいまの時期からできる準備は何でしょうか?

A. 樋口名誉教授は「トモエガモが飛来する場所は国内でどんどん広がっていて、どこの空港周辺に来てもおかしくない状況だ。対策のために人や予算をつけるとなると、いまから動く必要がある。各空港はまずトモエガモがどんな鳥かを認識し、周辺の環境なども調査して、一刻も早く対策に乗り出すべきだ」と話しています。

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