米テキサスの大規模洪水 今も捜索続く 原因めぐり“陰謀論”も | NHK

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米テキサスの大規模洪水 今も捜索続く 原因めぐり“陰謀論”も

アメリカ

アメリカ・テキサス州で120人以上が犠牲となった大規模な洪水から1週間。今もなお、160人以上の安否が確認できておらず捜索活動が続いています。

被害の実態やSNSで拡散している根拠のない情報についてなど、現地の状況をまとめました。

立ち入りが禁じられている地域 被害の実態は

テキサス州カー郡を流れるグアダルーペ川沿いでは、警察や消防などに加え、各地から駆けつけたボランティアも参加して捜索活動が続けられています。

NHKの取材班は、10日、カー郡の災害対策本部の保安官に同行して、捜索や支援の関係者以外の立ち入りが禁じられている地域を取材しました。

川の水位は下がったものの、本来なら緑がかって澄んでいるという水は今も茶色に濁ったままで、ボートで捜索にあたる人たちは流されてきた木が集まった場所などを注意深く確認していました。

姿が見えなくなっていたコンクリート製の橋は、がれきや木をほぼ撤去したものの、まっすぐになっていないことがわかり、車両の通行に耐えられるよう修復が行われていました。

流されずに残った木には、高い位置まで金属やシートのようなものが引っかかったままで、さらに川沿いの道路の斜面はところどころ崩れ落ち、水かさが大きく増していたことがうかがえます。

川沿いはまだ安全性が確認できていない場所も多く残っているということで、保安官は、さらに上流に一般の人たちが自由に入ることができるようになるまでにはまだ時間がかかるだろうと話していました。

亡くなった人たちに祈りささげる人も

カー郡の中心都市・カービルの中心部には亡くなった人たちを追悼する場所が設けられ、10日、市民が訪れて花を手向け、祈りをささげていました。

中には遺影の中に知っている人を見つけて声をあげて泣く人の姿も見られました。

教え子の1人を失ったという小学校教師
「突然、多くの命が失われ、今まで身の回りで起きたどんな出来事より、ただただ悲しいです」

大雨の原因めぐり“陰謀論”が拡散

今回の洪水被害をめぐっては、人工的に雨を降らせる技術によって大雨がもたらされたとする根拠のない情報が発災の直後からSNSで拡散しています。

発端になったのは、テキサス州では洪水の数日前に農地の干ばつ対策として人工的に雨を降らせる「クラウド・シーディング」が短時間行われていたというSNSの指摘です。

この情報が拡散し、人為的な天気の操作が洪水を引き起こしたのではないかという投稿が広がり続けました。

アメリカのメディアは複数の気象学者の見解として、「クラウド・シーディング」によって降らすことのできる雨の量は限られていて、洪水を引き起こすことは不可能だと伝えています。

しかし、テキサスで洪水被害があった翌日の5日、あるインフルエンサーはSNSのXに「聖書に出てくるような洪水を画策、気象戦争の世界へようこそ。テキサスで大規模な洪水が発生し、多くの犠牲者が確認され、被害が拡大している。気候の技術的な操作と気候の混乱は切り離せない関係にあり、これはほんの始まりにすぎない」と投稿し、洪水が人為的な天気の操作によって引き起こされたことを示唆する陰謀論を展開しました。

共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、この日、Xに「私は、天気、気温、気候、太陽光の強さを変える目的のために、化学物質などを大気中に注入、放出、拡散することを禁止する法案を提出する。私たちは、危険で致命的な気象操作と気候工学の実践を終わらせなければならない」と投稿しました。

一方、洪水があったテキサス州選出の共和党のテッド・クルーズ上院議員は7日の記者会見で「私の知るかぎり、天気の人為的な操作を関連づける証拠はゼロだ」と述べた上で「インターネットは変な場所だ。人々はあらゆるたぐいのめちゃくちゃな理論を持ち出してくる」と述べました。

テキサス州の農務長官は9日、声明を発表し「たくさんの誤った情報が飛び交っているので、はっきりさせる。テキサス州はあらゆる天気の操作にかかわっていない」としたうえで「陰謀論は終わりにして、なにかのせいにするのをやめよう」と呼びかけました。

初動対応 検証を求める声も

トランプ大統領は11日、被災地を訪問し、氾濫した川の周辺で地元の当局者から捜索活動の状況などについて報告を受けました。

アメリカ南部テキサス州で被災地の支援などの拠点が置かれているカービルに向かう道路では、11日、ところどころでアメリカ国旗やテキサス州旗を振りながらトランプ大統領の到着を人々が待ちわびていました。

テキサス州は共和党の強固な地盤のひとつで、集まった人たちは、警察車両などに先導されて目の前を通り過ぎる多くの車両の中からトランプ大統領を見つけようと目をこらしていました。

経営する宿泊施設周辺が被害にあったという女性
「救助にあたる人たちを支える思いでここに来ました。トランプ大統領はすばらしい仕事をしていると思います」

一方、現地では過去にも水害が起きていましたが、危険を知らせるサイレンなどの防災システムが導入されていなかったほか、地元当局の初動対応が十分だったか検証を求める声があがっています。

一部のアメリカメディアは、トランプ政権下でFEMA=連邦緊急事態管理庁の意思決定のプロセスが見直された結果、現地への支援が遅れたと報じています。

トランプ大統領は犠牲者の家族と面会したあと、関係者と懇談し、発生当初から政権として適切な対応をとってきたとした上で「このような恐ろしい被害を2度と出さないよう行動を起こす。地域の再建に向けて何ができるか、協力して取り組む」と述べて、対策の強化や地域の再建に全力を挙げると強調しました。

災害ボランティア 支援の幅広げる

今回の洪水の被災地では、南部ルイジアナ州に本部を置く災害ボランティア団体「ユナイテッド・ケイジャン・ネイビー」が発災直後から活動にあたっています。

団体は、20年前にルイジアナ州などを襲ったハリケーン「カトリーナ」で自らも被災したトッド・テレル代表が、災害時には住民が互いに助け合う仕組みが必要だと感じて立ち上げました。

今では全米19の州に展開し、ハリケーンや竜巻、洪水など各地で災害が起きるたびに、救助の経験やボートや重機の運転などの技能を持った人員を派遣していて、テレル代表は「家を建て直すなど、私たちが何らかの支援をした人たちが、次はボランティアとして戻ってきてくれています」と話しています。

今回の洪水でも、ドローンや救助犬、ボートなど自前の装備を持ち込み、当局や地元のボランティアと連携しながら、主に救助や捜索などを担っています。

発生から1週間がたって捜索の範囲や方法が次第に変化するなか、11日は、増水で川の脇に水がたまって池のようになっている場所からポンプで川に排水する作業を進めていました。

現地のメンバーのとりまとめを任されている地元出身のライアン・ローグさんにとっては水がたまった場所の周辺は娘と遊んだ思い出の場所だということです。

ローグさんは、次々にボランティアが駆けつけたり、必要な重機を提供してくれたりすることに励まされているということで、「この国は分断されていると言われていますが、違います。不幸にも悲劇を通じてではありますが、私たちは団結できるのです。人種や出身、信条などは全く関係ありません。ただ、助けたいのです。この事態を乗り越え、再び生活を取り戻せるよう支援していきます」と、全力を尽くすことを誓っていました。

団体の活動は、これまで救助や捜索が中心でしたが、今では被災者の生活の再建や心のケアなど、支援の幅を広げています。

今回、情報の伝達が適切に行われなかったという指摘が出ていることについて、テレル代表は「警報のシステムは、必ず議論されるべきことです。これまで議論されても動きになりませんでした。不幸なことではありますが、今回の災害は行動につながることになると思います」と話し、ボランティア団体として防災システムの整備などについても行政に働きかけていきたいとしています。

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