容疑者や被告が捜査に協力する見返りに刑事処分を軽くする「司法取引」について、最高検察庁が運用を従来より拡大して、10月から特殊詐欺の捜査にも適用していく方針を決め、全国の検察庁に周知したことが関係者への取材でわかりました。「司法取引」で得た供述などを客観的な証拠で裏付けながら、特殊詐欺の首謀者らの摘発につなげていけるかが課題となります。 「司法取引」は、容疑者や被告が共犯者など「他人」の犯罪について捜査に協力すれば、見返りに検察が起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする制度で、2018年に導入されました。 法律上は贈収賄や詐欺といった経済犯罪などに適用できますが、これまでその運用は限定的に行われ、適用が明らかになったのは特捜部が捜査した独自事件を中心に7年間で10件に満たない数にとどまっていました。 こうしたなか最高検察庁が運用を従来より拡大し、10月から必要に応じて特殊詐欺の捜査にも「司法取引」を適用していく方針を正式に決め、全国の検察庁に周知したことが関係者への取材でわかりました。 特殊詐欺の被害額は去年718億円と過去最悪になっていて、摘発されたメンバーなどと「司法取引」を行い、スマートフォン上での記録や供述などを得る狙いがあるとみられます。 一方、「司法取引」をめぐっては、無実の人を共犯者に仕立てる“巻き込み”の危険性も指摘されていて、得た供述などを客観的な証拠で裏付けながら、首謀者らの摘発につなげていけるかが課題となります。 専門家「有効な捜査手法 客観的証拠や合意過程がポイント」 「司法取引」の運用を特殊詐欺の捜査に拡大する検察の方針について、元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は「特殊詐欺事件で捕まるのは出し子や受け子といった末端が多く、なかなか上位者にたどり着けない犯罪の性質からすれば、有効な捜査手法として納得できる。やりとりがすぐに消えてしまうような通信アプリを使っていた場合でも、制度を活用して通信履歴を得て解析し、見つけることができれば非常に有効だと思う」と話しています。 一方で、「関係ない人を巻き込んだり、自分の罪をなすりつけたりすることも起こり得るため、そうした危険性をいかに防ぐかということにも注意を払う必要がある。協力した容疑者などの供述の信用性が否定されて無罪が続くようになれば何だったのかとなるので、客観的に裏付ける証拠や、『司法取引』の合意の過程がきちんと納得できるものかどうかがポイントになる」と話していました。