東京 八王子 スーパー3人殺害事件 未解決のまま30年 | NHK

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1995年、東京 八王子市のスーパーでアルバイトの女子高校生2人とパート従業員の女性の合わせて3人が拳銃で撃たれて殺害された強盗殺人事件の発生から30日で30年です。警視庁はのべ22万人の捜査員を投入して犯人を追っていますが、有力な情報は無く、事件は未解決のままです。

1995年7月30日、東京 八王子市にあったスーパーマーケット「ナンペイ」の事務所で、アルバイトをしていた高校生の前田寛美さん(16)と、矢吹恵さん(17)、パート従業員の稲垣則子さん(47)の3人が何者かに拳銃で頭を撃たれ殺害されました。

時効成立直前の2010年4月に時効が撤廃され、警視庁はのべ22万6000人余りの捜査員を投入し、強盗殺人の疑いで犯人の行方を追っていますが、逮捕に至らないまま30日で事件発生から30年となりました。

女性3人を残忍な手口で殺害した事件は社会に衝撃を与え、銃の根絶を目指す運動や、取締りの強化にもつながったとされています。

特別捜査本部にはこの30年間で合わせて1678件、最近1年間では32件の情報が寄せられ、中には「自分の知る人が事件に関わっているのではないか」などという情報も含まれていましたが、犯人には直結していないということです。

事件発生から30年を前に捜査1課の岡部誠幸課長は「捜査員一同、遺族の苦しい胸の内に思いを致し、日常を取り戻してもらうため、必ず犯人を捕まえるという一念で、全力で捜査を尽くしていく」と所感を述べ、ささいなことでもよいので1件でも多くの情報を寄せてほしいと捜査への協力を呼びかけました。

事件に関する情報提供の窓口は、八王子警察署の特別捜査本部042-621-0110です。

元同級生らが祈りの会も… 被害者を知る人たちは

当時高校2年生の矢吹恵さんが通っていた東京 町田市の桜美林高校では、毎年7月30日が近づくと当時の教員や元同級生が集まって祈りの会を開いています。

今月26日に開かれた会では、部屋に置かれた矢吹さんの写真のそばに明るい人柄をイメージしたひまわりの花が添えられ、およそ30人が静かに祈りをささげていました。

学年主任をしていた伊藤孝久さんは「矢吹さんは友人との高校生活を楽しみ、自分の明るい未来に夢を膨らませていたところでした。家族や友人たちの悲しみはもとより、いちばん悲しい、悔しい思いをしているのは本人だったと思います」と述べました。

矢吹さんと仲がよかったという元同級生の鷹野めぐみさんは「矢吹さんは一緒に電車に乗ると本当によく小さな子どもに話しかけて、こちらが恥ずかしくなるくらいでした。夏休みに遊びに行く約束をしていたので“行きたかったね”ときょうも語りかけました。事件が夢かと思いましたがテレビのチャンネルを変えても同じニュースが流れていて泣きながら見ました」と語りました。

未解決のまま30年を迎えたことについては「悔しくてつらいです。犯人が捕まったとしても亡くなった3人は戻ってきませんが、絶対解決してくれると信じて待ちたいと思います」と話していました。

《元捜査員「自身の負い目」》

遺体を運んだ元捜査員 記憶は今も鮮明に

事件の捜査に17年間にわたって携わった警視庁の元捜査員 堀川光一さん(62)は、30年前、事件が発生した日のことを今も鮮明に記憶しています。

当時、八王子警察署の刑事課で殺人や強盗の捜査を担当する「強行犯捜査係」の巡査部長だった堀川さん。

仕事を終えて帰宅し、2歳の娘を風呂に入れていた夜10時ごろ職場からの呼び出しの電話がかかってきました。

『事務所で3人の女性が亡くなっている』。

電話で1報を聞いたとき、同じ年の3月に『地下鉄サリン事件』が発生し、警察組織を挙げた捜査が継続していたこともあって、『オウム真理教の信者の集団自殺か』とまず、思い浮かべたといいます。

大急ぎで署に戻り、捜査車両で駆けつけた現場で目にしたものは見たこともない凄惨(せいさん)で異様な光景でした。

事務所に入るとアルバイトの女子高校生2人がお互いの手首が粘着テープで縛られたうえ、口もテープでふさがれ、頭を撃ち抜かれて亡くなっていました。

事務所の奥ではパート従業員の女性が、座り込んだような姿勢で、頭を2発撃たれ、殺害されていました。

いずれも即死で、犯人が拳銃を突きつけるようにして至近距離から撃ったことがうかがえました。

堀川さんは「被害者が全員女性で16歳、17歳の女子高校生もいて、まさかという思いでした。なぜここまでしなくてはならないのかという、怒りがわいてきました。先に撃たれた人がいて、“次は自分だ”と考えた時、ことばに言い表せない恐怖心だったと思います」と語りました。

鑑識作業が終わったあと、堀川さんは遺体を収納袋に入れて現場から運び出し、警察署まで搬送したということです。

深夜になっても汗が噴き出す暑い日だったことが印象に残っていて「袋に汗が落ちてしまって、申し訳ないと心の中で謝っていました。本当に怖かっただろ、絶対に犯人を捕まえるからなと思いながらご遺体を運んだことを覚えています」と振り返りました。

被害者の無念必ず晴らしてもらいたい

堀川さんは、聞き込みを徹底する「地取り捜査」の取りまとめなどにあたったあと、捜査1課に異動し、引き続き事件の捜査に関わりました。

捜査本部には日々さまざまな情報が寄せられ、被害者と関わりがあった人たちや薬物の常習者、素行不良者など犯人像を絞りきれないまま捜査の範囲は広がっていったということです。

目撃情報と特徴が合致する車を1台1台、しらみつぶしに調べました。

拳銃の製造元と判明したフィリピンに渡って捜査したこともありましたが犯人に迫ることはできず、捜査は長期化していきました。

遺族にも直接会って経過を報告していましたが、「一日も早く犯人を逮捕してほしい」という思いに接し、「申し訳ない」という気持ちが募っていったということです。

事件から15年後、時効の成立が目前に迫った2010年4月。法律の改正で殺人罪などの時効が撤廃されました。

当時の捜査本部のメンバーは犯人を追い続けられることに「希望の光」を感じたといいますが、2012年、堀川さんは逮捕につなげられないまま事件の捜査から離れることになりました。

事件を解決できなかったことへの思いから、刑事の仕事も退いたということです。

堀川さんは「17年もかかって犯人の名前も姿も見せることができず、被害者や遺族に対して申し訳ない思いです。未解決のまま捜査本部を去り、のちの捜査員に委ねなくてはならなかったことが自分自身の負い目であり、言い訳ができません。被害者や遺族の無念を晴らすことができるのは現役の捜査員たちしかいないので、本当に頑張ってもらって犯人検挙の報を墓前に飾ってもらいたい」と話しています。

《捜査本部は今》

捜査本部が置かれている八王子警察署は2017年に庁舎が移転していて、今月、特別に撮影が認められました。

居室には多数の捜査資料が今も保管されているほか、亡くなった3人の写真が飾られ、女子高校生の同級生たちが折った千羽鶴が供えられています。
そばには、事件発生の推定時刻午後9時15分を指した時計が置かれていました。
捜査員たちが手を合わせ、犯人逮捕への思いを再確認しているということです。
警視庁本部の歴代の刑事部長や捜査1課長もこの場所を訪れているということです。

取材した日、未解決事件の捜査を指揮する捜査1課の大井英世特命理事官は「事件発生から30年になるが、被害者の無念、遺族の思いを胸に粘り強く決して諦めず、“詰め切る捜査”を進めてほしい。詰めるだけの捜査はすでに終わった。詰め切ることによって捜査が前に進んでいく」と捜査員たちに訓示していました。

必ず「点」を「線」に 捜査への協力求める

事件現場となったスーパーは3年後に閉店して建物が取り壊され、現在は駐車場になっています。

当時の現場を可視化し捜査に役立てる目的で警視庁が10年前に3Dプリンターで作製した2つの模型は、1つがスーパー全体で実物のおよそ70分の1、もう1つがおよそ28分の1の事務所です。
売上金が入っていた金庫や斜めに傾いた冷蔵庫など、事件直後の状況を詳細に再現しています。

犯人は建物の外階段を使って2階の事務所に侵入したとみられています。

捜査本部が重視している証拠の1つが現場に残された足跡です。
犯人が履いていた可能性がある2つのメーカーの靴を割り出し、情報の提供を求めています。
1つは東京・神奈川・埼玉で430足余り販売された価格が7000円から8000円の靴。
もう1つが全国でおよそ100足販売された1万2000円ほどの靴です。

購入した人を特定し、事件があった時間帯について話を聞くなどの捜査を現在も継続しているということです。

また、当時の写真やホームビデオの映像に似た靴を履いた人物が映っていた場合には情報を提供してほしいと呼びかけています。

大井特命理事官は「数百点ある証拠について進歩した今の技術で再鑑定できるものがないか、一つ一つ確認しながら捜査を進めています。残忍な手口の事件で証言することを『怖い』と感じている人もいると思う。警視庁にとって忘れてはいけない、絶対に検挙しないといけない事件であり、どんな小さなことでもよいので連絡してほしい。それらの“点”が必ず“線”につながります」と話していました。

《30年の捜査の経緯》

【社会をしんかんさせる出来事相次いだ年に】
1995年7月30日に東京 八王子市の「スーパーナンペイ大和田店」で女子高校生2人を含む女性3人が殺害された強盗殺人事件。

事件が発生したのは阪神・淡路大震災や、オウム真理教による地下鉄サリン事件、当時の警察庁の國松孝次長官が銃撃されて重傷を負った長官狙撃事件など、社会をしんかんさせる出来事が相次いだ年でした。

閉店直後の時間帯、2階の事務所に残っていたアルバイトの高校生、前田寛美さん(16)と、矢吹恵さん(17)、そして、パート従業員の稲垣則子さん(47)がいずれも拳銃で頭を撃たれて亡くなりました。
事件発生の推定時刻は午後9時15分ごろ。
当時、事務所の金庫には店の売上金などおよそ500万円が保管されていましたが、金庫の鍵穴近くに発砲した跡があったものの現金は奪われていませんでした。

【凶器の拳銃の捜査は】
フィリピン製の回転式拳銃「スカイヤーズビンガム」が犯行に使われ、殺害された3人のうち、高校生2人は頭を1発ずつ、稲垣さんは頭を2発撃たれていました。

銃を発射した際に銃弾につく「線条痕」と呼ばれる痕跡が現場に残されていた銃弾についていた痕跡と酷似する拳銃が2009年に暴力団員から押収されました。
暴力団員は事件への関与を否定し、警視庁は製造元のフィリピンに捜査員を派遣するなどして捜査を進めましたが、拳銃の入手ルートなどを特定することはできませんでした。
捜査の結果から、警視庁は暴力団員は事件とは無関係とみています。

【現場に残された指紋は】
捜査関係者によりますと、事件現場からは女子高校生2人を縛る際に使われた粘着テープに残っていた指紋など、100点以上の指紋が採取されています。

犯罪歴のある人物や店の従業員、取引業者、捜査員の指紋などとの照合を進めた結果、誰のものかわからない指紋は残り7点になっているということです。

このうち5点は犯人が歩いたとみられる動線のそばから見つかっているということです。

【「犯人を知る人物」移送して捜査も…】
2013年、警視庁は、覚醒剤密輸に関わったとして中国で死刑判決を受けていた日本人が「カナダにいる仲間がナンペイの事件の実行犯を知っている」などと中国の公安当局に話したことなどを受けて、移住先のカナダから中国出身の男性の身柄の引き渡しを受け、捜査を行っています。
男性は過去に他人名義のパスポートで日本を出国した罪で起訴されたものの、ナンペイの事件については「何も知らない」などと話し、その後、カナダに帰国しました。

現在の捜査幹部や当時取り調べに関わった捜査関係者は、NHKの取材に対し、「男性の事件への関与は裏付けられなかった」としています。

捜査本部が求める情報は

警視庁は、これまでにのべ22万6000人以上の捜査員を投入し捜査を続けてきましたが、事件は未解決のままで犯人に関する有力な手がかりも得られていないということです。

捜査本部は
▽現場に足跡が残っていた靴底に六角形の滑り止めがある26センチのスニーカーを履いた人物に関する情報
▽閉店直前の午後9時前に店で買い物を済ませた若いカップルについての情報
▽現場で複数の目撃証言がある白いセダンタイプの車についての情報などを引き続き求めています。

警察庁は公費から懸賞金を出す対象事件に指定していて、解決につながる有力な情報の提供者には民間団体の懸賞金と合わせて最高で600万円が支払われます。

情報の提供先は、八王子警察署の特別捜査本部042-621-0110です。

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