亡きチェロ奏者の音源をデータ化 装置取り付けた楽器で再現
病気で亡くなった若手チェロ奏者が演奏した音源をデータ化し、装置を取り付けた楽器で生前の演奏を再現する催しが都内の楽器店で行われました。

千葉県四街道市の山本栞路さんは、全国コンクールで優勝するなど活躍が期待されたチェロ奏者でしたが、おととし白血病のため21歳で亡くなりました。
大手楽器メーカーのヤマハは楽器を演奏した際の音源から音の振動に関するデータを取り出して記録し、そのデータを基に装置を取り付けた楽器で演奏を再現する技術の開発を進めていて、去年2月、山本さんの両親から依頼を受け、演奏の再現に取り組んでいました。

6日は都内の楽器店でお披露目の演奏会が開かれ、会場には山本さんが実際に使っていたチェロが置かれ、装置が取り付けられました。
そして、生前の山本さんの映像を背景に「涙そうそう」や「愛の賛歌」など4曲が披露され、集まった関係者50人ほどが楽器が奏でるおおらかな響きに聞き入っていました。
演奏を聴いた同級生の男性は、「第1音を聴いたときに鳥肌がたちました。最近は高音質なストリーミングも増えていますが、実際に目の前の楽器で弦が震える状態で聴くのはやはり違います。彼の優しい音色を思い出せたような気がします」と話していました。
山本さんの両親の昭夫さんと昌代さんは、「息子の音楽とまた出会えたようで本当にうれしいですし、楽器も喜んでいると思います。今後は演奏仲間と生演奏でのコラボレーションなども期待したいです」と話していました。
ヤマハ アーティストの演奏を保存・再現する取り組み
大手楽器メーカーのヤマハは、2017年からアーティストの演奏を保存・再現する取り組みを進めています。
これまでもピアノなどの鍵盤楽器は、自動演奏が行われてきましたが、弦楽器や打楽器についても演奏の音源から振動データを記録し、楽器に装置を取り付けることで自動演奏させ、再現する技術を開発しました。
こうした技術によってアーティストの生演奏を記録し、仮に引退や解散してもライブを再現できるほか、民族音楽や伝統音楽の継承にも役立てることができるとしています。
ヤマハの柘植秀幸さんは、「今回はレコーディングの環境ではない場所でスマートフォンで演奏を収録した素材だったのでデータ化して再現するのに苦労しました。ご両親に息子さんの演奏はどのような音だったか聞きながら音量などさまざま調整を重ね、披露までたどりつきました。今回はチェリストのソロの演奏でしたが、カルテットやオーケストラなどにもチャレンジしたいです。絵画や彫刻、美術品のように生演奏も後世の人たちが楽しめるように音楽を無形の文化遺産として残していける仕組みを作っていきたいです」と話していました。