日本で親しまれている二ホンウナギについて、EU=ヨーロッパ連合は、絶滅のおそれがある野生生物の国際的な取り引きを規制する、ワシントン条約の対象に加えるよう提案しました。これに対して水産庁は、十分な資源量が確保されているとして、提案に反対するよう各国に働きかけていく考えです。
ワシントン条約は、絶滅のおそれがある野生生物の国際的な取り引きを規制する条約です。
ウナギのうちヨーロッパウナギは、2009年にすでに取り引きが規制されています。
さらに先月、EUは日本で主に消費されているニホンウナギやアメリカウナギなど18種類のウナギも、ワシントン条約の対象に加えるよう提案しました。
ワシントン条約には、184か国とEUが加盟し、今回の提案を採択するかどうか決める締約国会議は、ことし11月から12月にかけてウズベキスタンで開かれます。
会議では、出席して投票した国と地域の3分の2以上が賛成すれば、提案が採択されます。
今回のEUの提案が採択された場合、原則としてニホンウナギなどを輸出する国が輸出のたびに許可書を発行するよう義務づけられます。
規制の対象は、ウナギそのものだけでなく、シラスウナギと呼ばれる稚魚やかば焼きといった加工品も含まれます。
一方、提案が採択された場合でも、不服とする国はワシントン条約の事務局に「留保」を通告して規制を免れることができます。
仮に日本が留保した場合には、輸出国が許可書を出していなくても従来どおり輸入することができるため、影響は限定的だという見方があります。
一方で、輸出国があくまで許可書の発行を条件にしたり、事業者が輸出に慎重になったりして、日本の輸入に支障が生じるおそれもあるとして、水産庁は、提案が採択されれば、ウナギの価格の上昇につながる可能性があるとしています。
小泉農林水産大臣は、先月27日の閣議のあとの記者会見で「ニホンウナギは日中韓、台湾で管理を徹底しており、十分な資源量が確保されていることから国際的な取り引きで絶滅するおそれはない。今回のEUの決定は極めて遺憾だ」と述べました。
水産庁は、11月からの締約国会議に向けてウナギの漁獲量が多い中国や韓国、台湾とも連携してEUの提案に反対するよう各国に働きかけていく考えです。
提案の背景 資源量減少の懸念
ワシントン条約で規制が提案された背景には、ウナギの資源量が減少しているという懸念があります。
水産庁によりますと、国内で漁獲される二ホンウナギの稚魚の量は、年によって変動が大きいものの長期的に見ると減少傾向が続いています。
2019年には5トンを割り込み、過去最低になりました。
このため、輸入なしには、現在、日本で消費されるウナギを賄いきれないのが実情で、去年1年間に日本国内で供給されたウナギ、およそ6万千トンのうち、7割以上が中国などから輸入されています。
ウナギのチェーン店 「規制採択されれば影響大」
全国でおよそ390店舗を展開するウナギのチェーン店は、規制が採択された場合、仕入れの量や価格に与える影響は大きいと心配しています。
この会社は、うな重が主力のメニューで、全国各地におよそ390店舗を展開しています。
店で扱うウナギのおよそ9割は、かば焼きに加工された形で輸入されています。
もっとも人気なのは、ウナギ1匹分の輸入のかば焼きを使ったうな重で、消費税込みで2900円です。
ウナギのチェーン店「鰻の成瀬」の運営会社の山本昌弘社長は、「実際に規制がどうなるか分からないうえ、今の段階で自分たちができることはないので、進捗(しんちょく)がどうなのか、不安になりながら見ているだけという状況だ」と話していました。
そのうえで、「ウナギは長年続く日本の食文化でもある。輸出入への制限がかかり、日本にあるウナギ店が事業を展開できなくなるのは大きな損失だと考えるので、輸入がしっかりできる状態を維持してもらいたい」と述べ、政府に対し、輸入を続けるために必要な対応を求めています。
ウナギ完全養殖へ 大量生産のための水槽開発
絶滅のおそれが指摘されるニホンウナギの完全養殖の実用化に向け「水産研究・教育機構」などが、ウナギの稚魚を低コストで大量生産するための大型の水槽を開発しました。
ニホンウナギは、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いとされ、環境省の絶滅危惧種に指定されています。
食用のウナギは河川などで捕獲された天然の稚魚を育てて、養殖されたものがほとんどですが、近年稚魚の漁獲量は減少傾向で、価格が高騰していることなどから、卵から育てたウナギを親にして、さらにその卵をふ化させる「完全養殖」の実用化に向けた研究が進められています。
「水産研究・教育機構」は民間企業と協力してウナギの稚魚を低コストで大量生産するための新たな大型水槽を開発し、今月、公開しました。
ふ化したばかりの「レプトセファルス」と呼ばれる段階のウナギは、大きな水槽で育てるとエサをうまく食べられないなどの理由で死んでしまうため、小型の水槽で育てる必要があり、量産には大きなコストがかかっていました。
新たに開発された水槽は、高さ40センチメートル、長さ150センチメートルとこれまでの水槽の10倍の容積があり、底面の形状を工夫することで、エサ場となる場所を増やしてエサを食べやすくしています。
機構によりますと、この水槽1つで、小型水槽の10倍の1000匹程度のシラスウナギが一度に生産できるようになり、エサの改良などにも取り組んだ結果、1匹あたりにかかるコストは1800円程度と、これまでの20分の1ほどに抑えられたということです。
ただ、水産庁によりますと、天然のシラスウナギの取引価格は1匹当たり180円から600円だということで依然、コストには開きがあるということです。
水産研究・教育機構シラスウナギ生産部の須藤竜介グループ長は「将来的な大量生産につながる水槽の原型ができたと考えている。ウナギの資源の現状を考えると完全養殖を急ぐ必要があり、一日でも早くこの技術でできたウナギが食卓に届くことを目指したい」と話していました。
専門家「ニホンウナギ 個体数減少は深刻」
ウナギの資源管理に詳しい中央大学の海部健三教授は「ニホンウナギの個体数の減少は深刻で、将来絶滅する可能性が否定できないので、何らかの対策を打たなければいけない状況にある」と指摘しています。
また、EU=ヨーロッパ連合がニホンウナギなどの国際的な取り引きを規制するようワシントン条約の締約国会議に提案する方針を決めたことについて「提案の採否がどうなるかは全く分からないが、この問題は2007年にヨーロッパウナギが規制の対象とされてから綿々と続いてきた議論で、当時の提案にも日本が大量に消費していることが明確に記された背景があり、かなり重いものとして受け止める必要がある。規制の対象となっても国内の消費は規制されないが、流通量が減少し、ウナギの値段が上がることが考えられる」と指摘しています。
こうした中注目されている、卵から育てたウナギを親にして、さらにその卵をふ化させる「完全養殖」については「完全養殖だけでウナギ資源を守ることは難しい。資源管理の規制が強まったり、ウナギが激減してしまったりした際に食文化を守る技術として力を発揮するのではないか」と指摘しています。
そのうえで「いま食卓にのぼっているニホンウナギは、マリアナ諸島の近くで生まれてはるばる数千キロの旅をしているうえに、人の手で養殖され、輸出や輸入をされるなど、ウナギが本来たどる以上の長い旅をしてきている。さらにその背景には、密漁や密輸などの問題もあり、ウナギが海を越えていろいろな人間社会に影響を与えていることを考えてほしい」と話しています。