アメリカのトランプ大統領は関税措置をめぐる各国との交渉で関税率などに関する書簡への署名を開始したことを明らかにし、7日から順次送るとしています。一方、アメリカにとって貿易赤字の大きい国や地域を対象にした「相互関税」は今月9日が一時停止の期限で、関税引き上げへの懸念が各国で強まっています。
アメリカのトランプ大統領は、関税措置をめぐる交渉について4日、記者団に対し、12か国への関税率などに関する書簡に署名し、7日に送ることを明らかにしました。
対象の国は明らかにせず、日本が含まれているかはわかっていません。
トランプ大統領は、書簡を1日に10か国程度に送るとしていて、関税の徴収は来月1日から始めるとの意向を明らかにしています。
一方、アメリカにとって貿易赤字の大きい国や地域を対象にした「相互関税」は今月9日が一時停止の期限で、日本を含めた各国との間で交渉が続けられています。
期限が延長されなければすでに課されている一律の10%の関税が引き上げられ、トランプ政権が国や地域ごとに示した関税が課されることになります。
アメリカとの交渉で合意に至った国はイギリスやベトナムなど数か国に限られていて、関税引き上げへの懸念が各国で強まっています。
ドイツでも交渉の行方に関心集まる
アメリカが最大の輸出相手国のドイツでも、トランプ政権の関税措置をめぐる交渉の行方に大きな関心が集まっています。

機械を加熱する装置などを手がけるドイツ西部のメーカーでは、これまでは売り上げの20%をアメリカ向けの輸出が占め、最も重要な市場と位置づけています。
しかし、トランプ政権がEU=ヨーロッパ連合に相互関税を再び課すのかなど先行きが不透明なことから顧客からの注文が先送りされ、売り上げが見込めない状態が続いているといいます。
また、アメリカでの売り上げを増やそうと去年現地に設立した子会社は仕事がほとんどない状態だということです。

取締役のブルクハート氏は、顧客が注文を控える事態は想定していなかったとしたうえで、「問題は関税の割合がどうなるのか先行きが不透明なことだ」と話しています。
ブルクハート氏は、10%の一律関税のみであればアメリカの顧客とコストの増加分を負担し合い、輸出を続けられると考えていますが、相互関税が課されれば輸出は困難になるとみています。
ただ、相互関税を一時停止する期限が今月9日以降に延長されたとしても見通しが立たない状況が続くだけだと考えていて、「最も重要なのは決定が下されることだ。トランプ大統領が交渉における暫定措置ではなく最終決定だとはっきりさせることだ」と話しています。
会社ではアメリカ市場への依存を減らすためインドや中東など新たな市場の開拓に乗り出していて、ブルクハート氏は、「移行期間は困難なものになるが、今より安定した状況になると思う。トランプ政権の関税措置はアメリカにとって最終的には役に立つものではないだろう」と話しています。
EUとの関税措置めぐる状況
アメリカのトランプ政権がことし4月、EU=ヨーロッパ連合に課した「相互関税」は20%で、この措置は今月9日まで停止されています。
さらに、トランプ大統領はことし5月、EUとの関税措置をめぐる交渉が行き詰まっているとして、先月1日から50%の関税を課す方針を示しましたが、EU側の求めに応じてこれも今月9日まで延期するとしています。
EU側はこれまでトランプ政権に対し、一部の産業については関税措置を撤廃することなどを求めていて、アメリカへの対抗措置の発動を保留して交渉を続けています。
ただ、今月9日の期限が迫る中、ロイター通信は4日、関係者の話としてEU側が期限を過ぎても措置が停止されている現状を維持し、関税が引き上げられないことを目指しているとも伝えています。
タイ 米への輸出 落ち込みに懸念

相互関税の一時停止の期限が今月9日に迫る中、東南アジアのタイではアメリカに駆け込みで輸出する動きが広がっています。
このうち、首都バンコクにあるペットフードメーカーではアメリカ向けの輸出が売り上げの3割を占めています。
アメリカへの輸出にあたってはことし4月以降、10%の一律関税が課されていますが、相互関税が発動されれば関税率が36%に引き上げられることになり、取り引き先からは相互関税の一時停止の期限までになるべく多くの商品を納入してほしいと注文が殺到しているといいます。
会社では4月以降、生産ラインで働く従業員を増員するなどして、現在は例年の2倍のペースで出荷しています。
しかし、相互関税が課されるなど関税率がさらに引き上げられれば輸出が落ち込むのではないかと懸念しています。
会社は、手作業で行っている商品の袋詰めを自動化するなど生産コストの削減を検討するとともに、関税で増加するコストをどのように負担するのか、取り引き先とのあいだで話し合っているということです。
ペットフードメーカーの幹部、チャチャイ・ラウィーワットクンさんは、「アメリカに代わる新たな顧客を探す必要があるが、現状では非常に困難だ。タイとアメリカの交渉がうまく進展し、関税ができるだけ低くなるよう期待している」と話しています。