ウクライナで過去最大規模の無人機・ミサイル攻撃
ウクライナでは、アメリカからの一部の兵器の輸送の停止で防空能力の低下に懸念が出る中、4日にかけて、ロシア軍による過去最大規模の攻撃がありました。
また、ウクライナの外相はロシア軍が先月、都市などの攻撃に使った無人機は、5000機以上だったと明らかにしました。
ウクライナは相次ぐ攻撃を受け、被害が拡大しています。
ウクライナ空軍の発表によりますと、ウクライナでは3日夜から4日にかけて、ロシア軍の無人機530機以上とミサイル11発による攻撃がありました。
このうち主要な標的となった首都キーウのクリチコ市長によりますと、これまでに2人が死亡したほか、住宅やインフラに被害が出たということです。
ゼレンスキー大統領は4日、SNSに「過去最大規模の攻撃だった。大規模な圧力がない限り、ロシアがこの愚かで破壊的な行動を変えることはない」と投稿し、アメリカなどに対し、ロシアに対する圧力強化を求めました。
ただ、アメリカのトランプ政権は今月1日、ウクライナへの一部の兵器の輸送を停止したと明らかにしており、アメリカの有力紙は、この中には、防空ミサイルも含まれていると報じていて、防空能力の低下が懸念されています。
一方、ウクライナ軍の参謀本部は5日、特殊部隊がロシア西部ボロネジ州にある軍用飛行場を攻撃したと発表しました。
この中で、飛行場はロシア軍の戦闘爆撃機などの拠点だとした上で「敵の空爆能力を低下させるための攻撃だった」と明らかにしました。
ウクライナ外相 “ロシア軍が攻撃に使った無人機5000機以上”

ロシアはこのところ、ウクライナに対する攻撃を一段と激化させていてウクライナのシビハ外相はロシア軍が先月、都市などの攻撃に使った無人機は、5000機以上だったと明らかにしました。
月別では侵攻開始以来最多だったと伝えられています。
ミサイルの数も増えていて、先月は239発と前の月のおよそ2倍となりました。

各地で被害が相次いでいて、首都キーウでは先月17日にかけての攻撃で集合住宅の一部が崩れるなどして28人の死亡が確認されたほか、今月4日にかけても、首都キーウを中心に530機以上の無人機などによる最大規模の攻撃があり、死傷者が出ました。
アメリカのシンクタンク戦争研究所は先月29日、ロシアが無人機や弾道ミサイルなどの生産を拡大させているとの分析を示し、ウクライナ軍が撃墜できなかったミサイルもあったと指摘しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、防空能力を強化する必要性を繰り返し訴えていますが、アメリカのトランプ政権は今月1日、外国への軍事支援を見直す一環として、ウクライナへの一部の兵器の輸送を停止したと明らかにしました。
アメリカの有力紙は、隣国のポーランドまで運ばれていた防空システム「パトリオット」のミサイルと携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」、それぞれ20発以上の輸送も停止したと伝えていて、ウクライナは懸念を強めています。
市民有志が結成の団体150以上に
ウクライナ軍によりますと、ウクライナ各地には、軍と協力して防空の任務などを担う市民の有志が結成した団体が150以上あるということです。
このうち、首都キーウやその周辺で無人機を迎撃する活動などを行っている団体「ムリーヤ」は、2022年の侵攻開始直後に結成されました。
「ムリーヤ」の代表で、侵攻前は裁判官をしていたというセルヒー・サスさんによりますと、団体ではおよそ500人の市民が活動し、軍の動員の対象とならない60歳以上の人や、女性や学生、オペラ歌手など、さまざまなメンバーがいるということです。

サスさんは「まったく異なる人生経験を持った人たちが、国の主権や領土を守りたいという気持ちから結束している」と話していました。
メンバーは訓練を受けた上で、交代制で迎撃などの任務に就いているということで、これまでに機関銃を使って多くの自爆型の無人機などを撃墜してきたといいます。
一方、ウクライナのウメロフ国防相は先月、ロシア軍が大量の無人機を使い、戦術の工夫も重ねる中、市民による迎撃にも限界があるという認識を示しました。
ただ、ウクライナ政府は防空能力を強化するためにはこうした市民の団体との連携は不可欠だと考えています。
先月の閣僚会議では、訓練を受けた市民が電子戦のための装備などを使うことを許可する方針を決定したほか、より防空に特化した市民の組織を編成し、軍人と同様の社会保障を受ける権利も付与するということです。
団体の代表のサスさんは「戦争は常に変化しており、敵は常に改善を続けている。そして、私たちも対抗策を改善している」と述べた上でメンバーを対象に迎撃専用の無人機の操縦を訓練する方針だとして、防空能力の向上に貢献したいと意気込んでいました。
防空を担う市民 “すべての男性は国を守るべき”

首都キーウの近郊で妻と暮らすビタリー・ブリズニュクさん(62)は、ふだんは地下鉄のエスカレーターの整備員として働いていますが、2022年の侵攻開始直後からキーウやその周辺の防衛や防空などを担う団体の活動に参加しています。
現在は週に1回、防空の任務にあたっていて、防空警報が出た際はトラックの荷台に設置された機関銃を操作して、無人機を撃墜しています。
活動に必要な防弾のための装備は、自身で購入したり、知人から譲り受けたりして調達したということです。
60歳を超えているブリズニュクさんは、軍の動員の対象となっていないため戦地に赴くことはありません。
ただ、前線で兵士として戦っている息子の力になり、国の防衛に少しでも貢献したいと活動を続けているといいます。

ブリズニュクさんは「戦争が始まったその時から、この国を守ることを決心しました。ためらいはありませんでした。すべての男性は国を守るべきです」と話していました。
その一方で「幼い孫たちは毎日のように武器を見て、無人機の音を聞き、戦争が起きていることを理解しています。戦争は子どもたちにも影響を残すでしょう。それは本当に悲惨なことです。私が望むただひとつのことは、戦争が終わることです」と話していました。
専門家 “停戦条件をウクライナにのませたい姿勢の表れか”

ロシア軍がウクライナの首都キーウなど各地への無人機攻撃などを一段と激化させていることについて、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は「軍事的にはウクライナの防空体制をいかに弱体化させるのかというねらいがあり、政治的にはウクライナの戦意を喪失させたいというねらいがあると思う。さらに、それに加え、停戦交渉でロシアが突きつけている停戦条件をウクライナにのませたいという外交的な強気の姿勢も表れているのではないか」と分析しました。
その上で、防空システム「パトリオット」のミサイルについて現在、アメリカからの供給が滞っているとした上で「アメリカからの防空ミサイルの供給状況を見ながら、効果的なタイミングでウクライナに対してミサイル、ドローンを使った複合的な攻撃を続けていると思う。アメリカの軍事支援が十分に得られない状況で、果たしてどこまでウクライナが戦い続けられるのかと、プレッシャーを与えようとしている」と述べました。

また、無人機を使用している背景については「開戦当初はイランが製造する無人機『シャヘド』など外国からの輸入に頼っていたが『シャヘド』に関して、ロシアがライセンスを取得して量産体制が確立し、増産に成功している。ミサイルの量産というのは簡単にできないので、ドローンを使ってミサイルの不足分を穴埋めするような、攻撃のしかたをしている」と指摘しました。
兵頭氏は、今後のロシア側の動きについて「トランプ大統領の停戦に対する関心が完全に失われない範囲で、引き続き戦況を優先し、軍事的な攻勢を強めようとしている。特に東部のドネツク州などで攻勢が強まっていて、ロシアからすると、この夏の間に、どの程度戦況を有利な形に展開できるのか、そこをねらっていると思う」と分析しました。
そして「ウクライナの防空体制が弱体化すると、さらにロシアによる空からの攻撃が強まる可能性が出てくる。今後アメリカが、防空支援をどこまで続けていくことができるのかが、戦況上の大きな焦点になると思う」と述べました。